第225話 磯巾着の大合唱


バロンによって頭の数を減らされた磯巾着は内輪揉めをぴたりとめた。


突然の静寂に耳鳴りがする。


磯巾着もこのままでは一方的にやられるだけだと気が付いたようだ。


蛇たちはお互いに見つめ合い、中心を向いて円を描く。その様子はやはり、どう見ても磯巾着だ。


触手の間に隠れて見えるバロンは隠隈魚のよう。しかし、バロンは隠隈魚ではなく、ゴ〇ラなので容赦なく触手を減らしていきます。


頑張れ、ゴ〇ラ!私たちは余波で死なないように、できるだけ離れて応援しているね!


理想は磯巾着の声が届かない距離だったのだが、ボスフィールドの広さが思ったよりも狭かった。


耳を押さえて待機する。


そうこうするうちに、磯巾着の作戦会議も終わったようだ。


減らしても減らしても騒々しい磯巾着にうんざりしたように首を振っていたバロンへ一斉に首が向けられる。


一匹の黒猫へ注がれる何十対もの瞳。


これは大技が来そうだ。私はアイギスをゆすり起こした。



そして始まる磯巾着の大合唱。


同じ曲を同じ言語で歌ってくれたらよかったのに、なぜか皆、各々好きな曲を歌っている。


先程の会議は何だったのか。ここはゲームセンターではないんだぞ。こんなに音が混じったら耳が壊れる。


ああ、アイギスが、またお空の彼方へ旅立ってしまった。置いてかないで~、アイギス~。



『じゃっかぁしいわぁ!?』


キレたバロンが殲滅のスピードを上げる。


けれども、やっぱり数が多すぎるのでゲームセンターから抜け出せない。耳が~耳が~!



数多ある頭部をちまちまと攻撃したって埒が明かない。


奴の胴体はがら空きだ。ボディに決めるのはどうだろうか。もしかしたら、この不協和音が止まるかもしれない。


私の耳はもう限界だ。耳が痛くて、耳鳴りも止まない。耳がご臨終遊ばせる前に磯巾着の大合唱を止めてほしい。


けれども、バロンに磯巾着の胴体を狙う意思はないようだ。



いつものバロンなら、叩き放題の胴体を見たら素晴らしいリズムを刻んで、ついでに、もう一回叩けるドン!くらいはやりそうなのだが、今日のバロンは執拗な顔狙いなご様子。


声の大きい者から潰すという最初の発言にこだわっているのか、それとも別に理由があるのか。


バロンの考えは私には推し量れないが、猫様のすることに異議を唱えるのも野暮だろう。


このパーティで奴とまともに戦えているのはバロンだけだし。


私は大人しく私とアイギスの耳を護って待ってよう。でも、私のお耳が限界突破する前には終わらせてね。お願いだよ。



蛇さんが一匹、蛇さんが二匹、それでも合唱は止まらない。


蛇さんが三匹、蛇さんが四匹、まだまだ磯巾着は元気です。


減っていく蛇の頭を数えて気を紛らわせてみたが、耳へのダメージは減らせなかった。


諦めて空を眺める作業に移行する。


燃える炎のような橙色をした空には海月のような形の雲が浮かんでいる。


その雲の色は紫色なので、ますます海月っぽい。


これで空の色が海と同じだったなら、海を泳ぐ海月と言えたのだが、茜色なので調理中の海月かスープの中の海月にしか見えない。


海月のスープ食べたいなぁ。



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