第224話 耳当てか耳栓が欲しい
この磯巾着の頭どもは、それぞれ独立した意識があるようで、姦しくも騒いでいる。
小鳥と子犬のおしゃべり、視界をふさいで、それだけに集中すれば微笑ましく、可愛いらしいが、実際に囀ずっているのは磯巾着の蛇である。
磯巾着の触手のひとつとひとつがピーチクパーチク騒いでいるだけだ。
しかも、会話をしているのはその二頭、いや、二つの頭だけではない。
あっちの頭とこっちの頭は日本語と英語で昼下がりのサラリーマンのようにぺこぺこと頭を下げあっているし、
こっちとそっちの頭はやけに舌を巻いた発音と舌をよく叩く言語で喧嘩している。
磯巾着一体のはずなのに学級崩壊一歩手前の教室のような騒々しさだ。
その様子は初開店のアミューズメントパークの行列の方が近いかもしれない。もしくはイ〇アの開店前の行列でも可。
日本語、英語、フランス語、人間の言葉だけでなく動物の鳴き声まで多種多様な言葉でお祭り騒ぎをしていて、非常に五月蝿い。
情報量が多すぎて脳が混乱する。とりあえず、黙って。お願い、黙って。
「きゅぅ」
ああ、アイギスが限界をむかえてしまったようだ。
アイギス、待って。ここで寝ちゃだめだよ。これからボス戦だから、起きて。私を一人にしないで。
『囂しい奴らよの』
耳の大きな兎ほどではなくとも、猫も騒音は苦手だ。
バロンの耳が伏せられて烏賊耳となっている。尻尾はびたんびたんと地面を叩いているし、表情も険しい。
『声の大きい者から潰そう』
完全に据わりきった目で磯巾着を睨んだバロンさんの発言である。
煩い奴を黙らせる(物理)のは大得意って顔をしている。バロンさん、頑張って!
バロンが磯巾着に走り寄り、その頭の一つを潰す。
右前足で一つ、左前足でも一つ、振り向きざまにもう一つ。
磯巾着の頭の数は減ったが、まだまだ無傷な頭も多い。姦しさにも変わりない。
磯巾着からの反撃が来る。
無数の頭の内の幾つかが鞭のように頭をしならせて攻撃をしかけ、また、他の幾つかの頭が炎を吐いて暴れまわる。
バロンは器用にそのすべてを避けて頭の数を減らしていく。
磯巾着の方はバロンに避けられたことで頭同士がぶつかり、一部が喧嘩を始めている。
だから頭の数が多すぎるんだよ。なんでこんなに頭を付けたの。船頭多くして船山に上るという言葉を知らないのか。
磯巾着が仲間内での小競り合いに興じている内に、バロンは騒音発生機の数を減らしていく。
1、2、3、4、両手の指でも数えられないほどの頭を潰しても、もともとの数が多すぎるので変化はあまり見られない。
ちょっと櫛の歯がいくつかかけたかなぁ程度だ。脳を攻撃してくる雑音も変わらずに煩い。
どころか、蛇頭たちから発せられる音が大きくなったために耳まで痛くなってきた。
耳当てか耳栓が欲しい。街に付いたら防具屋さんで探そう。今なら法外な値段を要求されても従いそうだ。土下座も辞さない。
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