第223話 もはや磯巾着


「・・・・・・」


そっと崖の下を覗く。そこには鳥も人影も見えない。崖だ。やはり崖しかない。



「・・・なぁんだ、夢かぁ!」


白昼夢なんて我ながら器用だな。


どうせ夢なら食べられない鳥ではなく食べられる鳥の夢を見れば良いのに。夢であっても思い通りにはいかないものだ。



「っえ!?ルイーゼ!?」


どうしたの、アイギス?何かあった?え、硝子の鳥の夢を見た?


メルヘンだね!私も同じ夢を見たよ!お揃いだぁー。



『どうした?』


ロデオに言うこと聞かせようとして加減を間違えて光の粒子に変えてしまったバロンが戻ってきた。



「何でもないよ」


うん、何でもない。何でもない。アイギスと二人揃って白昼夢を見ただけだ。


だから、何にもなかった。何もなかったよ。でも、ちょっと不安だから


「もう少しそばを歩いて・・・・・」


私たちが猛禽類に目を付けられた時に異変に気が付いて駆けつけられるくらい傍に。




その後も変な鳥に遭遇するかもしれないと警戒を続けていたが、変な鳥は現れず、無事に?ボスフィールドまで進むことができた。


それにしても、結局、あの鳥はなんだったのだろう。


見間違いと言い張るのはアイギスも一緒に目撃しているので難しい。


しかし、その後出てこないのを見ると南の山道に出現するモンスターではないのかもいれない。


あの時に識別を使っていれば、もう少し何かわかったと思うが、私には猛禽類に凝視された状況でそんな余裕はなかった。


やばい、食べられるって状態で、冷静に相手を分析するとか私には無理だよ。


あれがメタルスライムのようなレアモンスターだったら、少しもったいない気もするけれど、このゲームにレアモンスターは存在するのだろうか。


今度クロウさんに聞いてみよう。



で、今はボスフィールドに到着して、ボスモンスターも格好いい登場を決めた後なのだけれど・・・・。


空を見上げる。茜色に染まった空は今が黄昏時であることを示している。


ボスフィールドに入る前にはお日様が元気に輝いていた気がするので、このフィールド内と外とで時間の流れが違うのかもしれない。


空から肩へと視線を移動させる。


何時も頭上にいるアイギスは頭上からフードの中へ移動し、耳を押さえて震えている。


フードの中から飛び出した尻尾が震えているのがかろうじて見えた。


そんなアイギスを眺める私は頭を押さえて現実逃避に励んでいる。


けど、そろそろ現実を見た方が良いかな。



ボスモンスターの名前はビーストオブビーストズ。


獣たちの獣?たしか百獣の王を英語で言うとキングオブビーストズだった記憶がある。


つまり、これは、ライオン?先のボスに続いて、またライオンに関係するボスなのか。


いや、でも、これは、ライオンじゃないでしょ。



敵を睨み据えようとして、どこを見れば良いのか分からず、視線が泳いだ。


いっぱい頭のついた蛇と聞くと想像するのはヤマタノ大蛇だろうか。


あれは、良いよね。頭の数がまだ、常識的で。


目の前の敵は、ちょっと、いや、大分、頭の数が多すぎると思うの。


船頭多くして船山に上るという言葉を知らないのだろうか。なんでこんなに頭が付いてるの。


うねうねと蠢く数多の蛇の頭は、もはや磯巾着だ。


磯巾着に蝙蝠のような羽と蛇の尾が付いた化け物、それがビーストオブビーストズ、百獣の獣と言う名の南のボスの姿だった。



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