第219話 ファンブリャー持ってるもの


必死に助けを求めたバロンは、しかし、ネメアーズライオンの姿を確認した後、地面を睨んだままふるふると震えている。


駄目だ。この状況を打開してはくれそうにない。


違っていてほしいが、もしかしたら、バロンの猫好きの血が騒いでいるのかもしれない。


ネメアーズライオン。今まで見てきたモンスターが嘘のように分かりやすい名前だ。


私でも分かる英単語、と言うか、外来語として日本語にも取り入れられている言葉である。


動物園の人気者、ライオン。別名を獅子。ライオンは猫科だ。


猫好きにとってライオンは猫と同じく愛でる対象に他ならない。ライオンは可愛い。


雌ライオンに甘えようとして素気無くされて落ち込む雄ライオンとか凄く可愛いよね。


そんな可愛いライオンにバロンは攻撃できないかもしれない。


どうしよう。かつてない絶体絶命、絶望的状況だ。


こちらからは攻撃できないのに、むこうは殺意満々。パーティの攻撃役が機能せず、さらに私かアイギスが下手に攻撃することも危険を伴う。


猫に攻撃したら、バロンに怒られそうだよね。


よしんば、バロンの不興を買わなくとも、そもそも、私の攻撃でモンスターにダメージを与えられるのかと言う不安もある。



ネメアーズライオンが姿勢を低くし、飛びかかる準備をしている。


まずい。これ以上、考えている時間はないぞ。


と、とりあえず、避けるしかない。自力で回避できなければ後ろの崖へ真っ逆さまだ。


回避をしたら、その後はバロンを抱えてボスフィールドから撤退だ。


速さには自信がある。転けさえしなければ行けるはずだ。



ネメアーズライオンの突撃。一直線に此方へ向かって突っ込んでくる。


速い!でも、避けられない速さではない。猫獣人の瞬発力を舐めるなよ。



「ふべらっ」



華麗に回避。崖下への転落は免れた。


しかし、飛びのいた勢いをそのままに、駆けだそうとした足がもつれる。


誰ですか、数瞬前にフラグ建てたの。


転けさえしなければ行けるって、そりゃ、転けますわー。だって、私、ファンブリャー持ってるもの。


こう言う場面で転けてしまうのがファンブリャーの運命さだめ


・・・本当に、早くこのスキルを抹消しないと命が危ない。


このスキルの影響で死に戻りをする前に何とかしないと。いや、既に危機的状況には今現在、陥っているのだけれども。



崖に向かって突進していたネメアーズライオンは崖に落ちる直前で急ブレーキを踏み、避けた私を振り返る。


私は地面に付いた両手に力を入れて立ち上がろうとするが、焦りが邪魔をして上手くいかない。


このままでは、ネメアーズライオンの突撃が来てしまう。


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