第218話 刑事ドラマの犯人の立ち位置
「モンスター襲ってこないね」
「ぷぅ」
牛のモンスターは元々温厚であまり襲ってこないらしいが、馬達は大好きなご主人様の帰宅をお迎えする犬並みに突進してくると聞いていたのだが、来ない。
凶暴な馬達の悪質タックルに見舞われることを覚悟して進んだのに、予想以上にバロンバリアは強力だったようだ。
おもちゃさんから聞いた話によると馬達は歌っている探索者には攻撃しないという。
歌だけでなく踊ってる探索者にも攻撃しないらしいが、踊りながら一定の方向に歩くのって難しいよ。
盆踊りか阿波踊りを習得しないと。よさこいでも可。
そのため、誰でも気軽にできる歌の方が掲示板では推奨されている。
だから私も歌う準備をしていた。え?周囲の探索者に聞かれたら恥ずかしいだろうって?
どうせ、濃霧で見えないから良いんだよ。この際だから、開放的な気分で思う存分歌ってやろうと思っていたのになぁ。
とんだ肩透かしだが、モンスターに襲われる危険がないのは嬉しい。歌でも歌いだしたい気分だ。
「でんでんでん・でん・でん~♪ライオンは~可ぁ愛~い~♪」
襲ってくると思っていた馬達は大人しい。
だが、しかぁし!私は歌いたいから歌う!今は歌う必要がないとか、そんなの関係ない!
前方を進むバロンを見失わないように気を付けながら歌い歩く。
バロンの黒い体躯は雲霧の中でも目立つとは言え、距離が離れたら見えなくなってしまう。
迷子防止のために開いた地図へ時々視線を走らせて、けれども地図を見すぎてバロンに置いて行かれないように注意しながらも進む。
おっと、危ない。バロンの姿を見失うところだった。小走りに薄ぼんやりと見える黒色に近づいていく。
・・・・あれ?なんか、この影、バロンにしては大きいような?
BOSS ネメアーズライオン Lv. 14
こんなこと、信じられる?
ただ、霧の中を歩いていただけなのに、フィールドボスに当たりました。犬も歩けば棒に当たると言うけれど、ルイーゼは歩くとボスに当たるようです。
マジで突撃される5秒前です。天国まで突き飛ばされそうだ。助けて、バロン。
私が己を見ていると気が付いたネメアーズライオンは空気が震えるような、どでかい咆哮を放ち、周囲の霧をはらった。
霧に隠されておぼろげだった姿がはっきりと認識できるようになる。
姿を現した太陽の光を反射して、黒鋼色の毛皮が硬質な輝きで煌めく。
もふもふ感ゼロの硬そうな前足が何度も地面を掻いて数秒後の突撃を予感させる。
バロ~ン!バロンさん!助けてバロン!
霧が晴れてみれば私の背後は崖であった。
断崖絶壁、刑事ドラマで追い詰められた犯人が人質を取って自供する位置である。
ネメアーズライオンは追い詰めた刑事の立ち位置、バロンはその横で証言する関係者の場所に配置されている。
ヤバい。天国までのカウントダウンが聞こえる。谷底に突き落とされたくないよう。助けて、バロン!
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