第220話 ライオン像
私の体力はボスモンスターの一撃に耐えられるだろうか。
何だかんだで今まで一度もモンスターの攻撃を受けていないので分からない。
いつもは敵の攻撃が私に届く前にバロンが敵そのものを消滅させてくれていたし、攻撃されそうなときにはアイギスが前に出て庇ってくれていた。
ボス戦においてもアイギスが代わりにダメージを引き受けてくれていたので、私はノーダメージのままここまでやってこれた。
しかし、そのアイギスも先程、転んだ拍子に定位置から転がり落ちて、未だに俯いて震えるバロンの近くまで転がって行ってしまった。
バロンどころかアイギスさえも頼れない状況である。
絶体絶命、大ピンチ。かつてない危機的状況だ。
神様どうか、腕力は幼女なみでも、体力の方は幼女なみではありませんように。
宛先不明の祈りを捧げながらも、視線だけはネメアーズライオンを睨み付けたまま、両手両足に力を込める。
立ち上がるのは無理だ。
突撃の態勢に入った敵を前に立ち上がるだけの時間はない。
けれども、転んだままでも避けることは可能だろう。
奴の突進は直線的だ。横に少しずれれば良い。奴が動き出した瞬間を狙って、進行方向とは逆側に逃げれば生き残ることができる。
だが、奴も私が避けるつもりでいることは分かっている。だから突進は真っ直ぐとは限らない。
右か左か正面か、奴の突撃コースを見極める必要がある。
地面を掻き続ける足を凝視する。その足が力強く地面を踏みしめて、宙に浮く。
来る!そう思った瞬間に、ネメアーズライオンの身体が視界から消えた。
「え・・・」
吹っ飛んで行った姿を呆然と見つめる。
『——貴様のどこが獅子かぁ!?猫科を騙る贋者めが!!』
金属を叩いたような硬質な音があたりに響き渡る。
初撃の大きな音に続くように重そうな金属音が何度も。
地面を這うようにしてアイギスがいる位置まで移動し、安全を確保したところで、あらためてネメアーズライオンの姿を観察する。
黒鋼のように硬そうな毛皮はもふもふ感を一切感じさせず、もふらーの興味をそぐ仕上がりだ。
丸みを帯びたなだらかな曲線を描く背中からお尻にかけてのラインも存在せず、その先にあるはずのライオンの細くしなやかな尾も尾の先のふさふさの毛玉もない。
いや、尻尾はあるが、その尻尾は蛇の形をしており、尻尾とは言えない代物なのだ。これは尻尾フェチもそっぽを向く。
さらに、地面をかく硬そうな前足を穴が開きそうな程観察したが、そのどこにも肉球がついていなかった。
硬そうな前足には、もっと硬そうな蹄しかついてなかったよ。猫科のあの、肉球つきの可愛らしいおててじゃなかったんだよ。信じられないよね。
極めつけは、あの素晴らしい雄ライオンの鬣も襟巻蜥蜴かエリザベスカラーと言った有様で、とてもじゃないが、ライオンには見えない。
ライオン詐欺だよ。知ってる言葉を見つけて一瞬喜んでしまったけれど、ライオン要素がどこにもないよ。
ライオンは私の知っているライオンだと思ったけれど、パンジャーブ語とかタミル語とか、私の知らない言語では別の意味を持つのかも。
そうじゃなければ、運営のライオン像が狂ってるんだろうな。
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