第216話 私のステーキ


「ルイーゼ。ポーチの中に飴が入ってたでしょ?」


「うん。欲しいの?」



アイギスには、ポーチから取り出した飴を舐めるように勧められた。


いや、お腹が減っているわけじゃないんだよ?本当だよ?



「うんうん。飴舐めて待ってよう?地面の石は噛まないでね・・・」


石なんて噛まないよ。アイギスは私のことを何だと思っているのか。



バロンは流れ作業のように牛を倒している。牛の名前は「スネーカブル」。


上半身が牛で下半身が蛇の姿をしたモンスターだ。


うん。下半身がこれではランプやモモは期待できないな。残念だ。肩ロースに期待しよう。



この牛を倒すと、何処からか現れた鳶が突撃してくる。


何故自ら死にに来るのか心底理解できない。


目にも止まらぬ速さで上空から牛に向かって急降下した鳶は、接敵と同時にバロンの手で空気に溶けていく。


何がしたいのか分からない。どういったモンスターなのか識別したいのだが、動きが早すぎて上手く識別ができない。


そのため、この鳶は名前すら分からずに一瞬で散っていく。



鳶のドロップ品は心臓。「山蛇牛の心臓」である。


うーむ。鳶の落とすアイテムなのに「山蛇牛」とは、これ如何に。


そして、肝心の牛の方は「山蛇牛の卵」と「山蛇牛の挽肉」を落とす。


いや、肩ロースは?サーロインは無理でも、肩ロースはあるでしょ?なんで肩ロース落とさないの?私のステーキは?ステーキは何処?



山蛇牛の卵を取り出してみる。もしかしたら、卵という名のお肉かもしれないという望みは儚くも散った。


角度を変えて矯めつ眇めつ眺めてみても卵は卵であった。


よく見る大きさの白い卵である。記憶に新しい肉巻き卵とちょうど同じくらいの大きさの卵だ。


・・・・蛇って卵生だったっけ?牛は間違いなく胎生だ。だから、この卵は牛のものではない。


おそらく牛の部分は山蛇牛の挽肉を落としているのだろう。


かたまり肉を落としてほしかったのに。ステーキがハンバーグになってしまった。


いや、ハンバーグも好きだけどね。



背後では挽き肉製造機と化したバロンが牛肉をミンチにしている。


ちがう、牛のモンスターを強烈な一撃で爆発四散させている。


これもちがう、スネーカブルと一方的な戦いを繰り広げている。


背後からの奇襲により、相手に気が付かれることなく確実に先手を取り、岩をも砕く(比喩ではなく、本当に砕きました。東の草原で)強烈な猫パンチで牛を物言わぬ肉塊へと変えていく。


一撃が重すぎて一瞬、牛のポップコーンが見えている。瞬きの間に光の粒子へと変化するが、その前になんか色々はじけ飛んでる。


光の粒子の中に一瞬だけ赤い何かが混じっているよ。ミンチだよ。



バロンは私のお願いをきいて牛を狩ってくれているのだ。バロンには感謝しかない。


私のお願いを聞いてくれてありがとう。深く感謝しています。


・・・・ところで、牛のドロップ品がかたまり肉ではなく、挽き肉なのは別にバロンが粉砕しているからじゃないよね?ちがうよね?


だって、鶏肉はミンチじゃなかったもの。うん。



識別によると、この挽き肉は合挽き肉らしい。・・・・何との?


片方は牛だろうけど、もう片方は何?一般的な合挽き肉は牛と豚だ。けれども、スネーカブルに豚の要素はない。


蛇か?蛇との合挽きなのか?「山蛇牛の挽肉」って、つまり、そう言う事?



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