第215話 牛とか牛とか牛肉とか
・・・・ヘイフェイバー、干し草の熱。字面だけを見れば牧歌的なイメージを抱くが、意訳すると花粉症である。
確かに東の大国の近くへ転移した時、周りは杉の木、しかも黄色の葉が生い茂った杉の木に囲まれていて花粉症には辛そうだなとは思ったが。
だからと言ってその名前はどうなのだろう。
しかも街の人、皆が花粉症みたいだし。目が充血するほどかゆいのなら目薬を差せば良いのに。
花粉症のかゆみは一度掻くと、さらに痒みが増して止まらなくなるからね。
それにしても、胃痛国と言い、腰痛国と言い、運営はまともな国名を付ける気がないのだろうか。
この調子でいくと、これから向かう南の大国もろくな名前じゃなさそうだな。
いや、まだだ、まだ諦めるには早すぎる。きっと太陽の国とか日輪の国とか、いっそ日の下の国なんて格好いい名前が出てくる可能性もある。
運営の皆さん、私信じてるからね!
『確認は終わったか?』
メニューから地図を呼び出して大国の方角を確認していた視線を上げる。
本日のバロンさんは気が急いているようだ。
いつもなら初めてのフィールドでは数時間ほど敵モンスターと戯れてから出発するのに、今日は必要最低限のモンスターしか倒さずに進んでいる。
モンスターを追いかけまわして道を反れたりしない。
「うん。南の大国へは、とりあえずこのまま真っ直ぐでいいみたい」
『ならば疾く進むぞ』
東へ向かう際には、道中、地図の確認を怠ったせいで迷子になりかけたため、今回はちゃんと数時間おきに地図を見ている。
その際に水分補給も行っているため、今のところ熱中症の兆候はない。
南の高台に生息するモンスターは牛と馬の形をしている。
牛の方は非常に温厚なようで、こちらから近づいて攻撃しない限りは向うからは寄ってこない。
馬の方は白と黒のモンスターが居り、どちらも好戦的だが、臆病でもあるようでバロンに睨まれると途端に回れ右して走り去っていく。
おかげで特に足止めされることなく、順調に南へ向かえている。
これなら夏が来る前に大国へ到着できそうだ。
「・・・・・・・」
「ルイーゼ?どうかしたの?」
モンスターとの戦闘がほぼなしで進み、戦ったとしても時々暴走して突っ込んでくる馬たちをバロンがワンパンチで沈めるだけである。
そのため、南の高台で手に入れたアイテムはかなり少ない。
少ないだけでなく、牛のアイテムについてはゼロである。
せっかく、目の前に美味しそうな牛肉がいるのに、サーロインもリブロースもヒレもモモもすねも手に入らないなんて。
「ねぇ、バロン・・ちょっと、ちょっとくらい寄り道をしてモンスターを倒してきてもいいんだよ?・・・・牛とか牛とか牛肉とか!」
『・・・・もう腹を空かせておるのか?』
そんなんじゃないよー。私は冷静だよ。
だって、まだ、牛肉に突っ込んでないでしょ?
目の前の美味しそうな牛肉に突撃しないだけの理性が残ってるんだ。私は正気だよ。
ただ、ちょっと、牛肉のステーキが食べたいだけ。美味しい牛カルビの誘惑に負けそうなだけなんだ。
『・・・・・少し狩ってこよう』
バロンはため息を吐いて牛に向かって行く。
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