第212話 そこじゃないです


「あら?まぁ・・・・!荒神様の妙薬!犬追い祭りも近いので助かります!」



真っ先に取り出した林道風の薬壺が思わぬ歓迎を受ける。


あの、これ、落とすモンスターがとんでもない姿なんだけれども、アリアさんは知らないのだろうか。


もしや、これ、ここらじゃポピュラーな薬なの?私が使ってるポーションには入ってないよね?



「冒険者ギルドも毎年、犬追い祭りに武器の貸し出しや薬類の提供という形で参加しているんです」


違う、そこじゃない。私が疑問に思ったのはそこではないけれども犬追い祭りの話も聞きたいから続きをどうぞ。



「街中でも催し物があるって聞きました」


「はい。祭りの期間中は飲食店もそれ以外のお店も街中に軒を連ね、大変賑やかになります。しかも、期間中、祭りの参加者はすべてただなんですよ」


「ただ!?」



お祭りってそれなりに費用が掛かるよね?


屋台とか出店の商品も元手がただってことはないだろうし、出店のための場所代もあるのではなかろうか。


それなのにすべて無料とは出品者は大赤字になってしまうのでは。



「祭りの期間のみ、飲食店以外は申請不要で誰でもどこにでも出店可能です。飲食店の場合は食中毒などの心配があるので事前に審査が入りますが、場所代などは徴収されません」


「へー、でも、商品の分は赤字ですよね?」


「はい。出店者は元よりそのつもりで出店していますから・・・・・・」



犬追い祭りはこれからの時期、東の草原で大繁殖するアイフル犬を減らすためのお祭りだ。


戦えるものは大人から子供まで挙って草原に繰り出し、アイフル犬と戦う。


戦闘が得意でないものは街に残り、食べ物の提供や怪我人の対応、収穫物の整理など、各々できることを行うらしい。


犬追い祭りでドロップしたアイテムは一度、すべて冒険者ギルドのものとなり、冒険者ギルドは協力してくれた各ギルドへ返金したお金か、アイテムを分配するそうだ。


だから組織としてはそこまで大きな赤字はでない。しかし、個人で参加する場合には、すべて自己負担となる。



「それでも良いと言う人たちが出店しています・・・・贖罪のために・・・・・・・」


「贖罪・・・・・・?」



ふと、買い取り素材に向けていた顔を上げたアリアさんと目が合う。


硝子玉のような今春色の瞳がそこにあった。


ひとつ瞬きをする。



「買い取り手続きが終わりました。他に何か必要な手続きはありますか?」


「え?あ、はい。えっと・・・・・」



先程までの空気が霧散して、突然、花が綻ぶような笑みを向けられて面食らう。


売りたい素材はすべて出したし、討伐依頼達成の手続きも終えた。


他にギルドでやらなければならないことはあっただろうか。そう言えば、メイゴスさんの、



「さっき、メイゴスさんの船に・・・・」


「はい・・え?まさかルイーゼさん、乗ったんですか!?」


「乗った時に・・・って、え?そういう依頼ですよね?」


「はい。まぁ、はい・・・・」



メイゴスさんの迷子癖改善法について糸口が見られたので報告をしようとしたら、その前段階で驚かれた。


驚くところ、そこじゃないです。この後、メイゴスさんが迷わずに目的地へたどり着く方法を提案するので、それまで待ってください。



  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る