第211話 見えないものは見えないほうがいい
はい。私は今、冒険者ギルドに来ています。
今日も可憐なアリアさんは受付カウンターの真ん中で業務に勤しんでいるようです。
受付の列に並びながら順番を待つ。
「・・・ルイーゼ、色々となかったことにしようとしてない?」
「ナンノコトカナー?」
アイギスが頭上からツッコミを入れてきているけれど、記憶にございません。
「・・・・巻物食べちゃったことは?」
食べちゃった、食べちゃったけど、特にあれから体に異常もないし、「五部大乗経」の効果も反映されたようだったから、大丈夫だよ。問題ないよ。
だいたい、いきなり飴状の物が口の中に飛び込んできたら、誰だって飲み込むでしょう?
あれが五部大乗経の正しい使用法なんだよ。きっと、おもちゃさん達も飲み込んだはずだよ。
今度、おもちゃさん達にあったら、聞いてみようよ。私と同じことをしたって答えてくれるよ。
「・・・・・・・・・半透明な女の人は?」
私の見間違いさぁ。幻覚を見たのよ、私。
風車小屋を出る前に、小屋を使用した後の礼儀として、いつも通りに鐘を鳴らした。
何時もと同じように鐘の音は聞こえず、何時もと同じように特に変化は見られないと思った。矢先のことである。
私の視界に半透明な女の人が映りこんできた。
真っ白な光沢のある服を着たご婦人は箒を手に小屋の中をくるくると踊り、その動きに合わせてシュルシュルという衣擦れの音が小屋の中で響いていた。
何故か透けているのが気になるが、小屋をお掃除してくれる親切な人だと思った。
思おうとした。けれど、その人はアイギスの目には映らない何かだった。
つまり、ゆう・・・。いやいやいや、そんなわけないでしょ。
バロンに聞こうにも腕の中で目を瞑って声をかけても無反応だし、前に鐘を振った時と今回で違うことと言ったらあのスキルを取ったことが真っ先に思い浮かぶし。
やっぱり、ゆう・・・・。いやいやいやいや、そんなわけない。きっと見間違いだ。目の錯覚だ。
「私は何も見なかった。半透明な女の人なんていなかった」
「ルイーゼ・・・」
「見えないものは見えないほうがいいんだよ!その方がみんな幸せでいられるんだ!」
「ルイーゼ、落ち着いて!」
アハハ!アイギス、私は落ち着いているよ。
ところで、一度取得したスキルを取り消す方法を知らない?
ファンブリャーとともに抹消したいスキルがあるのだけれど。
あの時の私は何を血迷って見鬼などという恐ろしいスキルを取得してしまったのか。
消さなきゃ・・・・早く抹消しなければ・・・・・。
「あの・・・・・ルイーゼさん?」
「ハッ」
いつの間にか私の順番が回ってきていたらしい。お喋りに夢中になってたよ。
「アリアさん!こんにちは。今日は買い取りをお願いします」
「え?あ・・・はい?え?かしこまりました?」
何故だかアリアさんが戸惑っておられる。
しかし、さすがプロ。戸惑いながらも了承し、私がアイテムを取り出す頃には動揺の欠片も見られなくなる。
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