第210話 食べちゃった・・・・


そして最後に気になったのが「五部大乗経」という代物。


おそらくこれはおもちゃさん達の言っていた初討伐報酬と言うものだろう。



探索者たちの中で一番にボスモンスターを討伐したパーティは初討伐報酬と言うものが貰えるらしい。


これはパーティの全員がだいたい同じものを貰うとおもちゃさん達は言っていた。


ここで、だいたいと付くのは今までに一例だけ、初討伐報酬として別の物を貰った例外が一名だけいるためだ。


その人のみが別の報酬だった理由は証例が少ないため不明だが、貰える確率はかなり低いと予想されている。



そのため、私たちは貰えない前提で、全員が同じ初討伐報酬を貰うと想定して、大魔王戦の報酬を分配した。


曰く、どうせ全員同じだろうからドロップした物はそのまま貰っとけ、とのことだ。


私たちは、もし、誰かが違う物を貰っていたとしても運が良かったな、として恨みっこなしだと約束し合った。


その初討伐報酬がこれである。



識別によると使用回数一回の消費アイテムであり、効果は「特定の職業やスキル等の強化」らしい。


私は「五部大乗経」をよく知らないが、経と付くことからお経的な何かだと思われる。


うーむ、私の職業は巫女見習い。神道と仏教は異なるものだが、世の中には神仏習合なる言葉も存在している。


それによると天照大御神が大日如来だったり、八幡様が阿弥陀仏だったりするらしい。


そう考えると神も仏もそこまで遠いものでもないだろう。


だから、きっと、「五部大乗経」で巫女見習いも強化できる!・・・・・と言うことで、ぽちっと。



手の中の巻物を使用すると、小屋中に巻物が伸びて広がり、私を中心に渦を巻く。


墨で書かれた解読不能な達筆たちが浮き出てきて、私の目の前にどんどん集まっていく。


真っ黒な墨の塊は凝縮し、飴玉くらいの大きさになると、ぽかーんと大口を開けていた私の口の中に飛び込んできた。


その、あまりの勢いに思わず嚥下する。



「っう・・・ケホッ」


元々舐めていた石の飴も一緒に飲み込んでしまい、胸のあたりが少し苦しい。


咳きこんでみたが、石の飴も墨の飴も喉の奥から出てくる様子はない。



「え・・・ルイーゼ、食べたの?」


『・・・・・・・』



二匹が呆気にとられた様子で私を見つめる背後では、文字を失い真っ白になった巻物が空気に溶けて消えていった。


口内に溜まった唾を飲み込めば、喉に会った引っ掛かりもなくなる。違和感も覚えなくなった喉を押さえて呟く。



「食べちゃった・・・・」



あれ?これ?もしかして?食べちゃいけないやつだった?



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