第204話 私の名誉が息をしていない
その後の話し合いにより、私たちは土下座はしないということで合意した。
今は砂の上に腰を下ろし、陽の光を受けて眩しいほどに煌めく海を眺めている。
砂のお城を作っていると思っていた探索者たちはなんとも完成度の高いネオアームストロングサイクロンジェットアームストロング砲を作り上げて、
次の瞬間、モンスターたちの集中砲火(一部探索者も混ざっていたような?)を浴びて、大砲もろとも散っていった。
まぁ、街はすぐ側なので戻って来ようと思えばすぐに戻って来られる。
死亡時のデスペナルティを気にしない探索者はすでに戻ってきており、次なる制作に取り掛かっている。
次は何を作るのだろうか。今度の製作物は曲線が多い。
集まる探索者たちの合間から、波のようにうねる線が幾重にも重なりあっているのが見えた。
「・・・・本当にごめんなさい。肉巻き卵を盗み食いして」
「あれは盗み食いと言うよりも拾い食い・・・・いえ、気にしないで。用意した貢物はまだあるもの。一つ減ったくらい、どうってことないわ」
お姉さんの名前はヘル子というらしい。ちょっと変わった名前だ。
ヘル子さんは少し前からここ、西の砂浜を中心に活動しているらしい。
目的は蛇のテイム。西の砂浜に出現する蝙蝠の羽が生えた蛇、名前は・・・・あれ?なんだっけ?まったく思い出せない。
そもそも私はあの蛇の名前を識別したのだろうか。近くにいる蛇を識別しようにも目に見える範囲にはいないようだ。
前回来た時には、もっとうようよといたような気がしたけれど、今は見当たらない。
西の砂浜に来る探索者が増え、狩られるモンスターの数が増えたことで、フィールド上の蛇の数が減っているのだろうか。
しかし、なんというか、鷹鷲がいるのに蛇がいないのが不思議だな。
まぁ、蛇の名前は今度見かけた時に確認するか、クロウさんに聞くかするとして。
ヘル子お姉さんはその蛇がテイムしたくて西の砂浜に蛇の好物(卵)を設置し、罠に掛かるのを待っていたらしい。
なんて狡猾かつ知能的な罠なんだ。獲物を好物で招き寄せて籠をかぶせて捉えるなど高度すぎて逃れられない策略だ。
そして、蛇じゃなくてゴメンナサイ。私は猫です。通りすがりのお腹を減らした猫獣人です。
「蛇さん用のお肉を食べてしまって本当にごめんなさい・・・・」
「いえ、いいのよ。一つくらい問題ないわ。・・・問題があるとすれば、私の名誉が息をしていないことだけよ・・・・・」
え?ヘル子さんの名誉息してないの?人工呼吸をしますか?
昔、習ったことがあるので私できます。
「いえ、気にしないで!うちの子、元から瀕死だったから!」
ヘル子さんの名誉は人工呼吸を必要としていないらしい。まくった袖を元に戻し、砂の上に座り直す。
しかし、本当に申し訳ない。私の歯形が付いた肉巻き卵は結局、丸ごと一つ私のお腹の中に納まってしまったし。
おかげで空腹が少し薄れ、ここで話をするだけの余裕を得られた。ありがとう、ヘル子お姉さん。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます