第203話 どら猫
ぱさっ
幻想の肉巻き卵にかぶり付いた途端に、急に視界が暗くなった。
え?なに!?何事!?
どうやら頭に何かを被せられたようだ。それが私の視界を奪い、周囲を暗くしている。
口に肉巻き卵を咥えたまま、状況の理解が出来ずに固まる。
しかし、この幻消えないな。もしかして・・・・本物?
「ぃやった——!掛かったわ!きゃ————!蛇ちゃんゲットよ!!」
突如響く女性の叫び声。・・・・蛇?
「いざ!ようやくのご対面!」
視界が開ける。銀髪ストレートの美女と目が合った。
柳のような眉がきりりとつり上がり、それに沿った目じりが涼やかな女性だ。
気が強そうと言うよりも仕事が出来そうな、確固とした己を持っていそうな印象の女性である。
左右で色の異なる赤青の瞳が女性の印象にミステリアスな雰囲気を足している。
「・・・・え?」
気まずい沈黙ののちに、女性は思わずと言うように吐息をもらした。
あの、蛇さんでなくてごめんなさい。私はどら猫です。
咥えているのはお魚ではないので私がここから逃げ出すことも、お姉さんが裸足で追いかけてくることもありません。
・・・これ、お姉さんの肉巻き卵だったんだ。お皿の上に歯形のついたお肉をそっと戻す。
こういう時にするべきことは決まっている。私は本物の猫ではなく、猫獣人だ。人としての責任をとらなければならない。
「スいませんっした————!!」
「キャ————!!え、ちょ!?土下座!?土下座やめて!?」
遠くの方でざわめきが聞こえる。砂浜でお城らしきものを作っていた探索者たちだろうか。
人の肉巻き卵をその辺に落ちていたとは言え、勝手に食べてしまった私の所業に驚いているのだろう。
ああ、違うんです。何時もはこんなことしないんです。空腹で錯乱していたんです。
食べ物に見えるものならこの際なんでも良いから食べたかっただけなんです。
「お願い・・・・お願いだから・・・一度、顔をあげて・・・・・?」
お姉さんの言葉に地面に付けていた顔を上げる。砂の上に押し付けていた額に付着していた砂粒が地面に崩れ落ちていく。
し、叱られる覚悟はできています。砂の上での土下座では誠意が足りないと言うのなら、街に戻って、舗装された石畳の上ですることも厭いません。
「誠に申し訳なく・・・・・」
「や、やめて!土下座をするのはやめて!貢物を食べられたくらいでそんなに怒ってないわ!」
もう一度、地面に押し付けようとした頭を止められる。
優しい。肉巻き卵を勝手に食べたのに怒ってないなんて、すっごく優しい。
こんなに優しいお姉さんの厚意に甘えることはできない。やはりここはきちんと誠意を見せて土下座しなければ!
「な、なんて流れるような見事な土下座なの!?惚れ惚れしてしまうわ!でも、駄目よ!土下座はやめて!ほら!あなたの従魔ちゃん達も心配してるでしょう!?」
「・・・・・」
『・・・・・・・・・・・』
お姉さんは音がしそうな程の勢いで二匹の方を振り返った。
お姉さんの視線を受け止めながらも、バロンとアイギスは無言で私を見ている。
何度言っても瓶に顔を突っ込んで頭が抜けなくなるおバカな猫を見るような目で私を見ている。
「してない!?むしろ呆れている・・・・!?あなたこれ、再犯なの!?何度もこういう事してるの!?」
ごめんなさい。お腹が空くと正常な判断が出来なくなる飼い主で本当にごめんなさい。
前にも西の砂漠で不用意に
煉瓦ってさ、なんか美味しそうだよね。色が。いい感じに焼き色ついててさ、ね?
「と、とにかく!兎に角っ!土下座はやめて————!!」
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