第186話 スフィンクスにはなりたくない
「ルイーゼ?何してるの?」
なにって?何なんだろうね!?自分でもよく分からない。
とりあえず今は、何かを鼓舞してるよ。
こういう時の加持祈祷とも思ったけれど、降魔印で中途半端に悪霊退散って叫んでもかえって怒らせるだけだと思い直して別のそれっぽいスキルを発動させたんだよ。
いったい自分が何を鼓舞しているのかはさっぱり分からないけれども。
神楽に合わせて天手古舞を踊る私、そんな私の周囲でおもちゃさん達は盆踊りを始める。
いや、私を中心に回っているこれはかごめかごめ?
大混乱である。我々は今、混乱の渦の中にいる。
その渦の中心、橘の実が落ちた場所に草が生えた。
草である。どこからどう見ても、なんど見返しても、草である。
え?いや、意味わかんない。どういう事?時間が止まったかのように踊っていた皆がぴたりと静止し、その場の音が消えた。
視線は草に釘付けである。私たちの視線を一身に受け草が成長する。
するすると茎を伸ばし、枝を生やし、葉を茂らせていく。橘の木だ、そう思った瞬間に、ふっと空気が揺れ、周囲の景色が変わった。
「森だ・・・・・」
そこはボスフィールドに入る前に歩いていた林の中だった。少し開けた広場の周りを見渡す限りの杉の木が囲っている。
その木々の中のどこにも先程見た橘の木は存在していなかった。
「い、生きてる・・・・・・」
「呪い殺されるかと思った・・・・・・」
戻ってきたと実感するや否や気が抜けて足の力も抜けた。
膝から頽れて、前のめりに地面に倒れ込む寸前、もっふもふなアイギスが頭と地面の間に入り庇ってくれた。
素晴らしいもふもふ。顔中が幸せな感触に包まれる。立ち上がる気力もないので、しばらくこのままいさせてください。
アイギスは私が抱き着きやすいように位置を調整してもっふもふスキルを使い続けてくれた。
「まぁ、カラスの呪いつっても、殺されはしないだろ。せいぜい禿げるくらいだ」
呪われていないかステータスを確認しようとした仲間におもちゃさんが楽天的に言い放つ。
いや、それはそれで嫌だけど!?
禿げる呪いとかスフィンクスになってしまうじゃないか。
猫アレルギーでも飼える無毛猫スフィンクス。
人懐っこい個体が多く、癖になる可愛さを持つが、バロンがスフィンクスになるのは嫌だ。私もスフィンクスになるのは嫌だ。
お2さんもその呪いは許容できないらしく、尻尾を抱えて震えている。
この中で真っ先に標的になりそうなのはバロンかお2さんだからね。
「とりあえず、転移しよう。転移先は安全な街の中らしいし」
アイギスを抱き枕にしたまま、リーダーさんの言葉に賛同する。
現在私たちがいるのは通常フィールドで、モンスターも普通に出現する。
このままここに留まってもいつモンスターに襲われるか分からないので早く安全地帯に移動した方が良い。
相変わらず念入りに脅してくるウィンドウに《はい》と答え、東の国へ移動する。
水面に沈む視界、蒼で満たされていく世界に眠気を誘発されて一瞬目を閉じた。
おやすみなさい。じゃない。こんな所で寝ちゃだめだ。瞼をこじ開ける。
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