第184話 西じゃなくて良かった


大魔王が倒れるのはまだ先だろうか、私の膝が笑いだしてきたのだけれども。


大魔王の攻撃に合わせて飛んだり、伏せたり、しゃがんだり、足腰への負担が大きくてつらい。


このままでは私の膝がご臨終してしまう。


大魔王は目つぶしだけでなく、膝つぶしも根に持っていたのだろうか。


膝に向かって集中攻撃したのはちょっと悪かったかなとも思うけれども、私は攻撃に参加してないし、一緒くたに仕返しされているのは解せない。


これ以上、足腰に負荷をかけるのはやめてください。


ここが西の大国だったら一瞬で逝ってたよ。腰が。


いや、でも、ここが腰痛国だったら、私の腰が逝く前に大魔王の腰が逝っていた気がする。


だってイナバウアーとか確実に腰にくる体勢だし。というか、大魔王よりも先にハンスが危険だったか。逆ブリッジも危険で危ない。


・・・・お互いに西じゃなく東で良かったね。だから、そろそろ倒れて?


私の足腰が他界する前に。



「奴の様子が・・・・!」


「やっ」



たか!とかフラグを立てかけたおもちゃさんの口をサルミアッキさんが高速で塞ぐ。


やめて。ここでもう一回遊べるドン!とか言われたら死ぬから。私の膝が。


ただでさえ、前半戦の反復横跳びでかなり来ていた膝は横跳び+中腰+しゃがみ込みetcでもはや限界を迎えている。


これ以上続けたら確実にご臨終遊ばせます。


サルミアッキさんも同じ気持ちだったのだろう。おもちゃさんによるフラグ建築を阻止してくれたサルミアッキさんを親指を立てて称賛する。


サルミアッキさんも同じく親指を立てて返してくれた。私たちは膝笑いソウル友達メイトである。


膝が笑いすぎて全身震え出したな、よぼよぼだなと遠い目をした先で同じような目で膝を震わせた同士を見つけた心強さよ。


そうだよね、これ、膝にくるよね、と思わず目を合わせたまま頷き合った夜。


そんな夜も終わりを迎えるようだ。



大魔王が身の毛もよだつような絶叫を上げる。


髪を振り乱し、鋭く伸びた爪で全身を掻きむしり、身体中の穴と言う穴から血を流している。


大魔王からとめどなく血が溢れ、大地を赤黒く染めていく。



ァオ“ア”ァァァァアアアアア“ア“ア“ア“ア“



絶叫が耳にこびりついて離れない。


天狗の面に開いた暗い穴の奥に終わりなき深淵を見つけて身体が凍り付いた。


恐怖で動けない私たちを一人一人視界におさめてから大魔王が消えていく。


けれどその後暫く、大魔王の流した血が止まることはなかった。延々と溢れ続ける血を眺めながら誰かが呟く。



「俺たち・・・呪われてないか・・・・・・・?」



呪われてるし、なんなら祟られてもいそうだ。



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