第177話 キレてますね・・・・・


地面に両手両膝をついてうな垂れる私の頭をてちてちとアイギス叩く。



「ルイーゼ、しっかりして!回復!」



大魔王の下駄を恨めし気に睨んでいた視界を真っ白なもふもふが占拠する。


頬に当たる幸せの感触に私は正気を取り戻した。


そうだ、筋肉さんとアイギスの体力を回復させないと。慌てて、筋肉さんへ医学を飛ばし、アイギスには応急手当をかける。


試しにバロンにも応急手当を使ってみたが、バロンの体力バーは1ミクロンも動かなかった。うん、知ってた。


バロンはおそらく、ここにいる誰よりもCONもVITも頑丈さも体力も優れている。


そんなバロンに私の応急手当が通用するわけないよね。


念のため、医学も使ってみようかと思ったけれど、筋肉さんの回復を優先させた方が良いだろうと判断し止めた。我ながら賢明な判断だと思う。



そのバロンは己の僅かばかりに減った体力など気にした様子もなく、大魔王へ突撃している。


体力全快、元気は100倍で空まで飛んじゃってる大魔王に驚異的な跳躍力で飛びかかり、往復ビンタをかましている。


バロンは凄かった。大魔王が纏っていた虹色の光が消え、攻撃は可能となった瞬間にちゅから始まる魔法の呪文を聞いた猫よりも速く大魔王に飛びついていた。


大好物の鮪や鰹を前にしたってあそこまで速くかぶりつくのはバロン以外のどんな猫にも不可能だろう。


それくらい素早く大魔王に噛みついて、噛みついた後は往復ビンタを続け、そろそろジャンピング踏み付けでフィニッシュをきめそうだ。


哀れな大魔王が地面に落ちてくる。幸い、前衛に出ていたメンバーも全員、回復のために後方へ下がってきていたので大魔王の墜落に巻き込まれたものはいない。



「キレてますね・・・・・」


「キレてないわけないっすよ」



回復したはずの大魔王の体力がすごい勢いで減っている。


私たちは執拗に大魔王に攻撃を続けるバロンから距離を取り、回復を続けていた。



「猫って己の失敗を必死に誤魔化すよな・・・・・・」


「ちな、失態を見られると暴れる猫もいる」



バロンは怪獣のごとく暴れている。



「・・・・・大魔王は転んだ状態で俺たちを地に張り付けた・・・」



バロンも同じくである。


他人に見られたくない失態時の姿で固められたバロン。


しかも『鴉は無様に地を這っておれ』とか尊大に言い放った数分後に自分が無様を晒している。


羞恥心が天元突破して、今のバロンの状態は激おこスティックファイナリアリティぷんぷんドリームを超えて、ビッグバンテラおこサンシャインヴィーナスバベルキレキレマスターユニバァーーーーーーース激激だろう。


もっと分かりやすく言うと煮えたぎるマグマを押さえつけていた蓋が急に取れた状態である。


現在バロン山は大噴火中である。近寄ると大変危険なので、適切な距離を取り、下手に刺激をしないよう言動を慎み、そっと大魔王いけにえを差し出しましょう。


触らぬ神に祟りなし、我々は大魔王サンドバッグに怒りをぶつけるバロンをそっと見守ることしかできないのだ。大魔王は諦めて。



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