第175話 ルイーゼのために・・・・・!
不安を隠せず、周囲へ忙しなく視線を走らせれば、そこにはまだ大魔王に屈していない仲間がいた。
「アイギス!」
「見ていて、ルイーゼ。僕がんばるから・・・・・!」
決意を秘めた眼差しが大魔王を居抜く。
アイギスは言葉通りに大奮闘してくれた。
四足歩行のアイギスは二足歩行の私たちとは判定のしかたが異なるらしく、右足は前足で、左足は後ろ足で判定するようだ。
立っちしたり、ジャンプしたり、必死な様子が想像を絶する愛らしさである。
一生懸命ぴょこぴょこしてるアイギスが可愛い。思わず応援にも力が入る。
「頑張れ!アイギス!!」
「いっけ———!そこだ————!」
身体が動いたら手に汗握り横断幕や団扇を振り回しながら応援したことだろう。
しかし、挑戦に失敗した私たちは地面に貼り付けられたまま、アイギスを見守ることしかできない。
くっ、カメラがないことが悔やまれる。録画ボタンって硬直したままでも押せないかな。
「曲調が——!?」
曲調が変わる。それまでのゆったりした曲調がアップテンポの忙しない調子へ。
それに合わせて、要求される手足の動きも速くなり、ついていくのも難しくなる。
立っちして、両足を地面に付けて、後ろ足ジャンプ。後ろ足ジャンプ、立っち、待機、立っち。
最初の方の余裕のあったリズムが嘘のように忙しない。
「ルイーゼのために・・・・・!」
一瞬、体勢を崩したアイギスはなんとかもち直し、前を見据えて構える。
「アイギス!!」
惜しい、アイギス。この曲のタイトルは『エリーゼのために』だよ。語感は似ているけれど、ちょと違う。
でも、ありがとう、アイギス。私のために頑張ってくれてるんだよね。
こんなに一生懸命手足を動かして。
その時、一瞬、ぴたりとした静寂が訪れた。
ピアノの音が一瞬止まり、また元のゆったりとした曲調へ帰っていく。
アイギスはその急な変化についていけずに、立っちした姿勢から尻もちをついた。
上手く立ち上がることが出来ないまま、次の音に迫られる。
「あ、アイギス————!?」
四肢に力を込めて必死に立ち上がったアイギスの頭に図形がぶつかる。
アイギスはそのまま図形に押し倒されて潰れてしまった。
地べたで白い毛玉が平たくなって震えている。
やだ、可哀想可愛い。エリザベスカラーを付けられた飼い猫やお風呂に入れられて縮んだ犬猫に感じる感情だ。
可哀想で可愛い。可哀想だけど可愛い。って、いや、それどころじゃなった。
私たちの最後の希望、最後まで残っていたアイギスが倒れてしまった。
この後どうなるのだろう。ゲームオーバー、最初からやり直しとなるのだろうか。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます