第169話 起きあがれない亀


私の降伏勧告は無視されて大魔王は反撃に転じる。


片膝をついたまま、羽団扇を持った手を天へと伸ばし、羽団扇へ、腕へ、炎の龍を這わせる。


このエフェクトからして次は炎の龍が襲いかかってくるな。



「散開!」



羽団扇が私たちの方へ差し向けられる。


それとほぼ同時にリーダーさんが左右に散るよう指示を出す。


私はアイギスとともにその場を飛び退いた。飛び退いた後でウォトカさんに視線を送る。


筋肉さんの体力はなんとか一撃耐えられるくらいには回復できた。しかし、リーダーさんの科白からしてウォトカさんの回復は間に合ってなさそうだ。


この攻撃が当たったら危ない。



見たかんじ、リーダーさんとサルミアッキさんは何時もどおりに上手く避けられたようで攻撃は当たっていない。


盗賊コンビも無事のようだ。


肝心のウォトカさんは近くにいたお2さんに場外へ蹴り出されていた。


勢いよく飛び膝蹴りで蹴り飛ばしたため、お2さんも一緒に炎龍の軌道から外れている。


お2さんは猫科らしいしなやかな身のこなしで着地し、武器を構えた。


対する蹴り飛ばされたウォトカさんは勢いに負けて地面へ引き倒され、潰れている。


・・・まぁ、なんにせよ無事でよかった。



「そこの酔っぱらい立て——!!立ち上がるんだ————!!」



リーダーさんが回復を飛ばしながら、ウォトカさんを激励している。


筋肉さんへ医学と応急手当を繰り返しながら、ウォトカさんの様子を伺っているが、顔面から地面に引き倒されたウォトカさんはぷるぷると震えたまま立ち上がる気配がない。


背中に鍋が覆い被さっているため、その姿はドワーフというより亀みたいだ。


起きあがれない亀。その亀の頭に一際、大きな音を立てて張り扇が振り下ろされる。



「呑兵衛!酔って立てないなら、せめて手足引っ込めて防御しろ!!」



え、ウォトカさん酔ってるの?たしかに戦闘開始からここまで、かなりの量を飲んでた気もするけれど。


うーん、視界の端に飲んでる姿がチラ見えしてただけだから、正確な飲酒量はわからないな。



「ちなウォトカは水だ!酔わない!!」



背中に乗った大鍋をずらして落とし、ウォトカさんが立ち上がる。


さらに、腰に手を当てて酒瓶の中身をイッキ飲みする。


まだ飲むのかウォトカさん。あの人酔わないのかな。



回復にてんやわんやな私たちを後目にバロンは大きく跳躍し、差し向けられた大魔王の羽団扇に飛び乗る。


そのまま、大魔王の腕を伝い、魔王の顔へ近づいていく。振り落とそうと暴れる腕を意にも介さず肩まで上り詰め、大魔王の顔へアッパーカットをきめて戻ってくる。


バロンの重い一撃に脳を揺さぶられた大魔王が一瞬、ふらついた。


バロンが稼いでくれたこの時間に私たち回復職は急いで前衛の体力を回復させないと。



「リーダーさん!手伝いは要りますか?」


「大丈夫!慣れてるから!その分、筋肉に集中して!」


「了解です!」



話しながらもリーダーさんは回復の手を止めず、前方では張り扇の音が絶えない。


大魔王の次の攻撃までに回復は間に合うだろうか。


医術の再使用可能時間が終わるのを待ちながら、前衛の様子を窺う。



  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る