第166話 寿限無の力


「白無垢の芳紀、婿待ちし乙女よ・・・汝を粗暴にせし狼藉者へ裁きを!汝を映さぬ眼は要らぬ!リンデンビバーナムの膺懲!」



詠唱に応じて未だ大魔王に纏わりついている蔦から芽が出て花が咲く。


小さな黒い花が群集して咲くあれは何の花だったかな。黒い花の記憶がない。


白無垢って言ってたのに花の色は黒だし、本来は違う色なのかもしれない。


その群集する黒い花からこれまた黒い粉のようなものが噴き出す。花粉かな?黄色くないけど。


その花粉が大魔王の目に向かって飛んでいき、天狗の仮面のくぼみの中へと吸い込まれていく。


花粉が目に入ったらどうなるのか、そんなの分かりきってるよね。


花粉の襲撃を受けた大魔王は目が~目が~と言わんばかりに、目を押さえて天を仰いでいる。


春先の花粉、つらいよね。痒くて目が充血しちゃう。



「あの厨二タイヤ・・実を言うと、うちのデバフ担当なんだよね。敵の行動を阻害したり、デバフかけたりする奴」



まさかのサルミアッキさんがジャマ―だった。


最初に発動した蔦の魔法でモンスターの動きを制限し、次に発動した花を咲かせる魔法で状態異常などをばらまくようだ。


先程の花の効果はゲーム的に言うと暗闇だろうか。一時的に対象の視力を奪う状態異常だ。


また一仕事こなすのかと思った首への蔦の絡みつきは次に発動する魔法で相手が花粉を吸いこみやすいように吸収個所の多い顔の近くへと這いよった結果だったらしい。


目、鼻、口、耳、侵入口はたしかに顔が一番多い。



それにしても私の水魔法は洋杯一杯の水玉を生み出すので精一杯なのに、サルミアッキさんの木魔法との差よ。


攻撃力がなさそうなのは同じでも、戦闘で役に立つ魔法と花の水やりにしか使えなさそうな魔法、全然違う。


いや、私の水魔法もアイギスの毛が燃えた時には役に立った。きっと使いどころを考えれば役に立つはずだ。


まだレベルアップの望みもある。



「見た目事故ることも多いけど、あいつの理想の魔術師像があれらしいよ」



え、仕事人が?違うか、きっと植物を自在に操る暗黒の魔術師とかが理想なのだろう。


ドルイドみたいな自然を愛しむ魔法使いとか、蔵まみたいな植物を操る魔法使い?を目指しているのかもしれない。



「あのよく分からない無駄そうな呪文も魔法を発動するために必要みたいで・・・呪文と一緒じゃないと魔法が使えない系のスキルを取ってるらしいんだよね・・・・・・・」



通常、魔法の発動に呪文や詠唱は必要ない。しかし、サルミアッキさんは逆に詠唱を付けることで、魔法の威力とか種類を増やしているらしい。


そんな方法もあるのかと思うものの私は真似をしたくないなとも思う。


だって、自分がああ言った呪文を叫ぶとなると恥ずかしいし。


しかも、サルミアッキさんの呪文は自作らしく、それなりの文字数を要求されていたらしい。


私には無理だ。知ってる呪文をつなぎ合わせるか、最悪寿限無の力に頼るしかない。


小学校で暗記させられた寿限無から始まる呪文を唱えるしか。



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