第164話 大魔王は泣いても良い

それにしても、誰も大魔王の顕現パフォーマンスを見ていないな。


ボスが出現するときには荘厳な演出と格好いいモーションとともに出てくることが多いが、


大魔王の見た目を確認した途端に各々、大魔王に背を向けて歓喜のハイタッチや話し合いに移行してしまったため、誰も大魔王の格好いいポーズをみていない。


筋肉さんにいたってはハイタッチにも話し合いにも参加していないが、みずからのポージングに夢中なため論外である。



誰も見ていない中、格好いい登場を決めた大魔王は天狗の団扇をひと振りして雷雲を呼び寄せる。


背後で鳴り響いた稲妻に全員一斉に振り返った。



「なんかあいつ怒ってね?」



吃驚して眠気が吹き飛んだ。


大魔王の登場前には大分眠気もなくなっていたけれど、先程の雷鳴によって微睡みの余韻ごとすべて吹き飛んでいった。


心臓に悪い目覚ましだ。もっと優しく起こしてよ。



冴えきった眼で睨んだ大魔王は、私以上に据わった目で此方を睨めつけている。


その目元には気のせいか、きらりと光る何かが見える。あっ、え?なんかごめんね?


そうだよね、せっかくの登場を誰も見てくれないとか悲しいよね。えーと、許してニャン☆



はい、二度目の落雷です。大魔王はがち切れしているようだ。


背後に雷背負ってるよ。



「始まるよ!みんな気を引き締めて!」


「おう!」



おもちゃさんとよろしくしてたアイギスが私の前に位置取りをする。


私は改めて後ろに下がる。リーダーさんも私と同じ位置まで下がってきた。反対におもちゃさんとお2さんは前に出る。



「遠距離攻撃あるかもしれない。落雷に気をつけて」


「はい」



大魔王の背後で轟く稲妻が後衛の私たちに落とされる危険性がある。


稲妻の動きにも注意しておこう。



先陣を切るのはバロンだ。雷よりもなお速く大魔王へ接近し、横っ面に峻烈な猫パンチを食らわせる。


泣きっ面に蜂ならぬ泣きっ面に猫である。すごく痛そう。


大魔王は泣いても良い。いや、もう泣いてたか。



バランスを崩した大魔王へ畳み掛けるようにお父さんとおもちゃさんの盗賊コンビが攻撃を加える。


お父さんは自らの爪をおもちゃさんは短剣を武器としている。


私の爪は猫のように出したり、引っ込めたりできないけれど、お父さんの爪は伸びたり、縮めたりできるらしい。


鋭い爪を大魔王の手に突き立てようとしている。しかし、大魔王のもふもふな羽毛は見た目よりも硬いようで思ったようにダメージを与えられていないようだ。


鋭い舌打ちと共に二人は大魔王から一度距離を取った。



次いでお2さんの攻撃。大魔王が体勢を整える前に背から引き抜いた幅広の剣で切りつける。


さすが虎。力強くダイナミックな動きだ。装備で分からなかったが、お2さんもかなり筋肉がついている。裾からチラ見えした腕がかなり太い。


そのしっかりと筋肉の付いた腕を大きく振りかぶって切り降ろされる斬撃は強烈そうだが、大魔王の硬い毛皮を切り裂くには足りなかったようだ。


鎌のように曲がった刃が大魔王の身を断つことはなかった。しかし、まったくダメージが通らないという訳でもない。


おもちゃさんに教えてもらった敵モンスターのHP表示方法により、確認可能となった大魔王のHPバーが僅かに変動している。



大魔王の反撃。手に持った羽団扇が大きく振りかぶられる。


その切っ先に紅蓮の炎が生み出され、龍のようにうねる。


炎の龍は大きく口を開け、私たちを飲み込まんと言わんばかりに襲いかかってくる。



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