第157話 ちなみに血は吸わない


バロンの日ごろの行いについて懸念を抱きながらも、黒影の消えた先へと進む。


道中に敵の姿は見当たらなかった。バロンによって討滅された後なのだろう。こういうところが血に飢えてるって思われる所以なのかな。



私たちがバロンに追いついた時は、ちょうどすべてが終わったところだったようだ。


木々が少し開けた広場にはモンスターを倒したときに現れる光の粒子が溢れていた。


その光の中心で美味しそうに肉球を舐める黒猫が一匹。モンスターを倒しても返り血などはつかない筈なのに、手についた敵の血を舐めとっているようにしか見えない。


これは間違いなく血に飢えている。



これ以上の暴走を防ぐために、勝利の余韻に浸る猫を捕まえる。


バロンはフィールドでの抱っこを嫌がるけれど、他の人もいる中でモンスターを倒しに駆け回られても困る。暴走猫は確保します。



『・・・・これでは獲物を狩れぬ』


抱き上げられたバロンは私の頬をひとなめした後に、不満気に前足を突っぱねた。


抱き着きついでに寄せた頬が離される。



「一人で先に行かないでよ」


皆、右に逸れて蚊を迂回することを選んだのに、一人で直進してしまったバロンに次からは一緒に曲がってくれるよう頼む。


『迂回などと遠回りなことをせずとも敵はすべて我が屠る故、問題なかろう』


バロンはこれからも迂回はしたくないようだ。いつからそんな猪突猛進になってしまったの?


バロンさんはいつの間にか曲がる機能を無くしてしまったようだ。バロンは真っ直ぐ突き進みます。直線状にいる人は巻き込まれないように脇へ逃げてください。


冗談はさておき、バロンを説得しなくては。



「置いてかないでよ・・・・バロン・・」


最近、気が付いたのだけれども、バロンは上目遣いの懇願に弱い。庇護欲そそる系の態度でお願いすると普段聞いてくれないようなことも了承してくれることが多い。


女の子は何歳でも女優なのよ。ルイーゼの演技力でバロンを抱っこする権利をもぎ取って見せる!



『む・・・・』


効いている!ルイーゼの上目遣いはバロンに有効なようだ。このまま押し切って、抱っこ移動の許可をもらおう。


「側にいて・・・・・」


『・・・・・・・・・・・・・・・・・・・わかった』



カンカンカン!ルイーゼの勝利!やった!バロンから抱っこの許可が出た!良かった。暗くなる前にバロンを捕まえられて。


だんだんと周囲の景色が明度を失っていき、風に揺れる杉の木が怖くなってきたところだったのだ。


あのざわざわ揺れる木の陰とか何かいそうで嫌だったの。腕の中に最強の味方を確保して安心したかったの。


これで、ついでにバロンの暴走も抑えられるし、一石二鳥だね。



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