第156話 奴は今、血に飢えている
「最初はルイーゼちゃん達の様子を見るために俺たちは控えめでよろしく」
リーダーさんの指示にこたえて筋肉さんが新たなポージングを魅せる。手を頭部の後ろで組み胸を張っている。
こうして見ると筋肉さんの腹筋の凸凹が強調されて腹部に連なるヒマラヤ山脈の迫力凄い。
村を出てモンスターも出現するようになったのに、筋肉さんのポージングが気になりすぎて集中できない。
でも、私の役割はアイギスと筋肉さんの回復なので、筋肉さんから目が離せない現状は回復職として正しいのか。
だって回復対象を凝視しているわけだし。後はアイギスが盾役をこなしたときの体力に注意しておけば問題はないのか。
敵モンスターは暴れたくてうずうずしてるバロンが倒してくれるだろうし。
何も問題はなかった。ヨシ!なんて考えている間にモンスターが出現する。
東の草原から東の林道へフィールドが移行したことで、現れるモンスターも変わっているはずだ。
恐怖のとら狐が出なくなったことはおもちゃさんから聞いているが他のモンスターの情報はない。
強敵だった蚊以外にも増えたモンスターがいるかもしれないし、識別を使って確認しながら進もう。先程出現した白い影は——
「あれ?」
モンスターが出現したと思ったけれど、別にそんなことはなかったようだ。
視界に一瞬、白い影が映った気がしたが改めて視線を向けても何も見えない。見えない何かを見てしまったのだろうか。
「前方、このまま行くと蚊の大群に接敵するぞ」
「回避で」
お父さんの索敵結果を受けてリーダーさんはすぐさま回避指示を出す。
即断即決である。そして誰もその決断に異を唱えない。
「回避~!回避~!」
お2さんは間髪入れずに背後を振り返り、右手を右回りに振る。
右に迂回して、奴らを回避する作戦のようだ。進路が右側に大きくそれる。
誰もが蚊の集団とは出会いたくないと考え、一致団結して迅速な行動をとったが、一匹だけその考えを共有しなかった者がいた。
黒き疾風が一団を通り抜け、左右に並び立つ木の葉を揺らす。
「え?ちょっと!?バロン!?」
隣にいたはずの黒いもふもふが忽然と姿を消している。
急ぎ姿を探せば、真っ黒な魅惑のボディが蚊のいると思われる方向の杉の木林の中へ吸い込まれていくところだった。
「え、うそ!?待って!?バロンさ——ん!?」
おもちゃさんたちへ必死に謝りながらあっという間に見えなくなった後姿を追う。
おもちゃさんたちは苦笑いで許してくれた。
蚊は見た目以外は厄介でもなんでもないモンスターで攻撃されても痛くないし、集られても一撃で倒せるので大丈夫だと言う。
しかし、肉体的なダメージを受けなくとも、蚊に集られた時点で精神的ダメージが大きいと思うので、今回のバロンの暴走は本当に申し訳ない。
「奴は今、血に飢えている」
謝罪を続ける私へサルミアッキさんからの一言。
だからしょうがないと言うことらしいが、吸血してくるはずの蚊よりも血に飢えている猫ってどうなんだろう。
うちのバロン、血気盛ん過ぎない?そして、ほんの少しの時間でそう思われるなんて、バロンさんはどれだけ血に飢えた言動をしていたと言うのか。
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