第142話 不思議だね


街ならば外壁で囲まれているためモンスターの侵入も防げそうだが、村の多くは簡易な柵しかない。


ズィーボルトも堀のようにめぐらされた運河の脇に申し訳程度に設置された柵しかない。


空を飛ぶ蚊のようなモンスターもいる中での対策として、これでは不十分ではなかろうか。



「安全地帯ってモンスターに追われた状態で飛び込んでも機能するの?」


分からないことは聞いてみる。分からないままにしておくよりはずっと良いだろう。


私よりも先に村へ逃げ込む判断をしたおもちゃさんなら知っていそうだし。



「おう。仕組みは分からんがあいつら村には入ってこないぞ」


「飛んでるのに、あの柵越えられないんだ?」


「そう。飛び越えられそうなのに、なぜか入ってこない」


「不思議だね」


「不思議だな」



なんて会話を繰り広げている内に運河にかかった橋を渡り切り、村の中へ入った。これでモンスターに襲われない。安全だ。


安全が確保されたので改めて村の様子を見てみる。村の外観は、始まりの広場のある中央の街に似ている。


広場は鮮やかな朱色だけれど、街中は落ち着いた煉瓦色の建物が多いのだ。大きな四角窓が規則的に並ぶ背の高い建物が多いところも似ている。


街をめぐる運河の存在も同じく。同じ国の都市だから雰囲気も似るのだろうか。


でも、西側を探検した時に立ち寄った村は青や緑の小さめの建物が可愛らしい村だった。方角によって村や建物の特色も異なるのかな。



『さぁ、とく次の獲物の元へ案内せよ』


バロンがおもちゃさんに命令している。先程、珍しく蚊を追いかけまわして憂さ晴らしをしなかったのは早く次のボスを倒して進みたかったからのようだ。


バロンは私が思うよりもずっと猫が好きなのかもしれない。


少なくとも、件のボス猫さんの元へ早く行くために暴れるのを後回しにするくらいには同朋を大切に思っているようだ。


だからこそ、はやく次のボスの元へ向かいたいと言う気持ちが急いているのだろう。


急いたバロンは、わざわざ近くにあった街灯に登り、上から見下ろすようにおもちゃさんに圧をかけている。


街灯のてっぺんではなく、途中に飾られた花の中から顔を出す姿が偉そうな口調と裏腹で可愛い。



「は、はい・・・あの・・・・・もうすぐ場所を知ってる俺の仲間が合流するので、それまで少々お待ちいただけ・・ない・・・・でしょうか・・・・・?」


おもちゃさんどうしたの?可愛いバロンの姿になごむ私とは異なり、おもちゃさんは緊張した様子でバロンの言葉にこたえている。


確かにバロンはよく暴れるけれど、突然、味方の探索者に噛みついたりはしないはずだから、そんなに緊張しなくても良いと思うんだけど。



「ねぇ、バロン。東に進むのは明日にしない?もうすぐ夜だし・・・・夜は危険が危ないよ」


夜のフィールドは危険だ。狐の一件ではっきりと思い知った。夜間にはフィールドに出ないほうが良い。


うかつに繰り出すと出会ってしまう。お化けとか幽霊とかお化けとかに。



  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る