第137話 子猫がにゃーにゃー
「すっげぇ見事なジャンピング五体投地だな!?」
必死か!?とおもちゃさんは言うけれど、ここで必死にならなくて何時必死になると言うのだろうか。
私たちはハンスとの再戦を強いられているのだ。二度目ましては今度こそ物理的に死ぬか、精神がやられるかする未来しか思い浮かばない。
命がかかっているんだ。形振りなんてかまってられない。
『・・・・・しかし、かよわい子猫が我を待っているのだぞ?早く行ってやらねば・・・・』
私の懇願にもバロンは意思を変える様子がない。
おもちゃさんは小声で「いや、めっちゃでかい化け猫だし、強いって聞いたけど・・・・」ともらしている。
それバロンに聞こえないと意味ないし、聞こえてもバロンの脳中ではか弱い子猫が増殖中で説得効果は薄いと思う。
たぶん今のバロンの頭の中では小さな子猫がにゃーにゃー鳴いていて私たちの声の大部分がかき消されている気がする。
気もそぞろに南をちらちらと確認する様子がそれを物語っている。
「漆黒の君!ここから引き返して南へ行くよりも、いったん東へ進んで転移で胃痛国に戻ってから南へ行った方が早いと思います!距離的に!」
おもちゃさんが敬礼しながら提案するのに全力で同意する。ハンス討伐後に歩いた分の距離があるから次のボスの方が近いと思います。たぶん。
『・・・・・・・・・・・・・・そうか』
バロンは暫く私とおもちゃさんを凝視していたが、私たちの主張に納得してくれたようで、元来た道を引き返そうとするのをやめてくれた。
良かった、これでハンスに再会しなくてすむ。おもちゃさん、協力ありがとう。本当に本当にありがとう。
「よ、よ~し!あらためてズィーボルト村へ出発だ!もう、すぐそこだぞ」
「お、おー!」
距離的には進んだ方が近いと思われるのは本当だよ。
本当だけれども、バロンの猫睛石のような美しい瞳にじっと見つめられると後ろ暗い本心まで暴かれそうで身体が硬直する。
別に後ろ暗いことなんて今はないけど。ないけどね。そんな不安を打ち払いように努めて声を張り、気合を入れる。
バロン的にもズィーボルトへ向かうことには特に反対もないようで何も言わずについてくる。
一瞬、アイギスを頭上に配置し忘れて歩き出し、ふくらはぎに頭突きされた。ごめんね、アイギス。
それから程なくして、目的のズィーボルト村が見えてきた。
話に聞いていた通り、村と言うより街に近いような大きさだ。
昆布茶色や紅鬱金色、錆利休のような落ち着いた色合いでまとまった外壁の所どころにアクセントのように鮮やかな白が入った家々が並んでいる。
村の周囲を堀のように運河が囲んでおり、村の豊かさを物語っている。
「あそこがズィーボルトだ。すぐそばに見えるのがズィーボルトの学び舎」
おもちゃさんが指さす先には煉瓦色と乳白色の建物が見える。
窓がたくさんついているのは胃痛国、中央の街を連想させる。建物に近づいて窓のない乳白色の壁を仰ぎ見れば、そこに解読不能の文字を見つけた。
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