第136話 御猫御前様
そんな私の答えにおもちゃさんの目から光が消えていく。あの表情はアイギスが良くするやつだ。
神は死んだとでも言いだしそうな絶望顔。おもちゃさん、諦めないで!すべてを投げ出すにはまだ早い!絶望に身を任せている暇はないのだ。
バロンは私たちがバロンを止める名案を思いつくまで待ってはくれない。今もおもちゃさんに猫虐め集団の居場所をはかせようと詰問している。
そろそろ一向にはかないおもちゃさんへの苛立ちが限界に達しそうだ。
ひとまず今は噓の情報を伝えてもらって時間を稼がなくては。おもちゃさん、できるだけ正解から遠い場所を答えてください。
「え、えーと?猫様・・・いや、違う、御猫御前様?・・・・・漆黒の君」
『小僧、とく答えよ』
おもちゃさんはバロンの迫力にたじたじである。
御猫御前様が何かも分からないけれど、それより上の敬称が漆黒の君で良いのかも不明である。
今の日本の敬称ならば名前に様をつけるのが一般的だと思うが、それでは心もとないので別の方向へ冒険しだしたのだろうか。
一昔前なら、名前は呼ばずに、宮殿、御殿、城、館、屋敷など特定の建造物の名称をもって敬称することが多かったので、それに倣おうとしたのかもしれない。
バロンは住所不定だけれども。・・・だから漆黒の君なのか。
早くもどうでも良いことを考え出した私とおもちゃさんの視線がばちりと絡む。
とりあえず、おもちゃさんには目線だけで偽の情報を教えてくれるように頼んでおく。
「あーと、その、例の探索者たちはボスを二体倒して別の国に転移したその先を冒険しておりまして・・・・・」
『ふむ。それで奴らのいる方角は?』
「え、えーと・・・・にs」
だ、だめです。おもちゃさん。西はすでに探索済み。
二体のボスを倒したその先に目的地を据えた機転は素晴らしいけれど、西では意味がない。
西は踏破済みなのですぐに偽情報だとバレてしまう。それではバロンを誤魔化しきれない。
「あっ、えーと、違う・・・・・南、そう!南にいるって聞きました!」
南かぁ・・・。南は暑そうなんだよな。特にこれから夏が近づくと地獄だろうな。なんて悠長に考えている時間なんて私にはなかった。
『よし、行くぞ!』
「今から!?」
おもちゃさんから情報を聞き出したバロンは歩いてきた道を引き返し、南に向かおうとする。
『今こうしている間も我の助けを待つ猫がおるのだぞ』
「あーと、でも、ここから戻るとハンスと再戦することになるますぞ?」
『そ——』
「ハンスは無理です思いとどまってくださいお願いします!」
何かを言いかけたバロンを遮るように叫び、ジャンピング土下座を決める。
びたんと言う音を立てて大地と仲良くなり、全身が痛い。
しかし、それ以上にハンスともう一度闘うのは嫌だ。もうハンスには会いたくない。
私のジャンピング前にうまく逃げだしたアイギスも隣で勢いよく頷いている。
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