第135話 アイコンタクト
『どこにおるのだっ、その不逞の輩は!?』
考えている内にバロンがおもちゃさんに詰め寄っている。その勢いは件の集団の居場所を聞いた瞬間に飛んでいき、すぐさま殺戮しそうだ。
まずい、このままではバロンが他の探索者を攻撃してしまうかもしれない。従魔の暴走は主人の責任となると冒険者ギルドで聞いている。
このままバロンを止められなかったら私、プレーヤーキラーになってしまう。
プレーヤーキラー、通称PKとはオンラインゲームにおいて他のプレイヤーを攻撃するプレイヤーを指す言葉である。
ゲームによってはフィールドでの死亡時にアイテムを落とすことがあり、そのアイテムを狙って行うものや対人戦闘に魅入られたもの、人を攻撃する背徳感を味わいたいものなど目的は様々だ。
多くのゲームにおいてPK行為には何かしらのデメリットが設けられている。
たとえば街での買い物が割高になるとか、取引を拒否されるとか、そもそも街に入れてもらえなくなるとか。
デメリットを設けることでPK行為を抑制しようと言う運営側の狙いだろう。
ゲームによっては行為自体ができないように制限されていたり、PKを行えるサーバーと行えないサーバーを用意し棲み分けを行っているものもある。
PK行為はオンラインゲームにおける迷惑行為の一つにも数えられるのだ。
まぁ、味方のふりして近づいてきて、殺してアイテムを奪い取るとか普通に怖いし嫌だ。
殺してでも奪い取るは倫理的に危険な思考だ。戦闘狂の人たちには申し訳ないけれども、あまり賛同したくない行為である。
イディ夢においてPK行為は仕様として可能だ。転んだ私が放り投げた草原犬の根付がアイギスの頭にたん瘤をつくったように仲間同士での攻撃判定が存在する。
攻撃できるってことは倒せるってことだ。私はまだであったことがないけれど、イディ夢にもPKはいるだろう。
できればずっと会いたくないなぁ。って、いや、今はそれどころじゃなかった。このままではバロンもろとも私までPKの仲間入りしてしまう。
私はバロンに詰め寄られているおもちゃさんとアイコンタクトを試みた。
ハローハロー、聞こえますか?今私は貴方の脳に直接語り掛けています。
おもちゃさんお願いします!バロンに!件の探索者たちの場所を教えないでください!
おもちゃさんは私よりも更に必死な目で訴えかけてきた。
この猫止めて!お前の従魔だろ、なんとかしてくれよ!とぎんっとした目力でもって訴えかけられたが無理である。
私にバロンを止める力はない。だから私はアイコンタクトでそう返した。
人間が猫の行動を制限するなど烏滸がましい。人と猫では主人は猫の方である。
よって、人が猫に命令することなどできない。そもそも規格外のバロンを従えるなど不可能である。だから私にバロンを止めることなどできる訳がないのだ。
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