第129話 彼はおもちゃです。


「えっと、あの、なんと言ったら良いのか・・・ご迷惑をおかけして・・・・・」


土下座をすると色々障りがあるらしいので、立ったまま謝罪を続ける。


知らない人に自分の顔を見た途端、突然泣き出されて、まともに話もできないまま数十分にわたり拘束されるって拷問だよね。かなり怖いよね。


男性には本当に申し訳ないことをしたと我ながら思う。しかし、男性は怒った様子もなく両手を胸の前で振って、気にするなと笑って言う。



「気にすんな。ハンスのメタモルフォーゼ、初見だったんだろ?あれはマジビビるわ・・・仲間にも置いて逝かれて怖かっただろ?」


「あ、ありがとうございます・・・・・」



良い人だ。優しい。ここにいると言うことはこの人もハンスの変態経験者なのだろうか。


アイギスが先に気絶してしまって心細く怖かったこともわかってくれるなんて思いやりの深い人だ。


こんな人に迷惑をかけて、何と言って詫びれば良いのか。



「それでも気になるって言うなら、なんか情報を提供してくれ」


「情報?」


「そう。なんか面白いこと知らない?」



目がきらっきらに輝いています。おやつを前にした猫の目です。あれ?なんかおかしいような・・・。良い人、だよね?


いや、そんなことよりも今は青年に喜んでもらえる情報を思い出さないと。ご迷惑をおかけしたせめてものお詫びだ。



「その前に、いい加減場所を移さないか?モンスターに囲まれたら危ないし」


周囲を警戒するように見渡した青年が告げる。


言われてみれば確かに、先程からちらちらとバロンの突撃によって消えていくわんこが視界の端に映っており、気にはなっていた。


ボスを倒したことでボスフィールドが解除され、同時に通常のフィールドに出現するモンスターが現れるようになったのだろう。


ボスを倒したばかりでモンスターの出現が少ない今のところバロンが見敵必殺してくれているので囲まれてはいないけれど、


敵の数が増えたらバロンの壁を越えて私たちも襲われるかもしれない。


早めに安全地帯に避難した方がよさそうだ。



「俺はレーゲンヴルム。近くに村があるからそっちに・・・・」


「え?」


「レーゲンヴルム」


「・・・え?」



レーゲンブルム・・・さん?えっとレーゲンヴルムってあれでしょ。


意味は分からないけど格好いい言葉辞典で読んだよ。確か意味は蚯蚓ミミズだったような・・・。


え、つまり、蚯蚓さん?蚯蚓さんって呼べってこと?



「まぁ、覚えにくいって評判だから、おもちゃで良いよ」


「・・・・・・・え?」



フゥー イズ ディス?ヒー イズ トイ。彼はおもちゃです。


どういうことなの?



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