第128話 冤罪だ!
「うわぁ————ん!!ぅう゛え゛———ん!!」
号泣した。
巨人、ハンス怖すぎっ——。
突然泣き出した私に男性がひどく慌てているけれど、ごめんなさい、今人間の言語を話せる自信はないの。
「えっ、ちょ、なっ」
「びゃあ—————ん!!うっ、ひっく、お゛えっ」
「ガチ泣き!?」
男性は不思議な躍りで私を落ち着かせようとしてくれているけれど、涙はとまりそうにない。
「う゛ぁ—————!!」
「あ、あ——。もう存分に泣け。気の済むまで・・・・まわりに人が居なくて良かった。居たら社会的に死んでたわ、俺・・・」
後半は声が小さすぎて聞こえなかった。
というか私の泣き声でかき消されていた。いや、本当に、ごめんなさい。だって、巨人が、ハンスが
「変態したぁあ゛————!」
「!?変態!?ちょ、え゛」
冤罪だ!男性はそう叫んで、必死の形相で周囲を見渡した後に誰もいなかったことに安堵のため息を吐いた。
冤罪じゃないよ、ハンスは本当に変態したんだよ。キュアホ○イトルックに変態、変身したんだよ。
「ハ゛ンス゛がぁ————っ!」
「え、あ、ハンスか・・・・。ん?変態?・・・ぁあ、蛹が蝶になるときの?いや、ハンスならガチで変態か?」
しかも、変態したハンスは凄まじい速さで近づいてきて死んでしまうかと思ったのだ。
「バ、バロンがぁ—————っ!!」
「え、何っ、次の容疑者はバロンさん!?」
ラスボス・バロンは巨人のタックルにも耐えられたようで良かったけれど、頼みの綱、心の支えであるアイギスが先に逝ってしまって、非常に心細かった。そう、
「アイギスもぉ—————っ!!」
「他にもいんの!?」
容疑者多いな!?とかなんとか男性が叫んでいるけれど、泣くことに忙しい私は反応できない。
ハンスに血走った眼差しを向けられた時、アイギスもろとも圧死させられるかと思った。
揺れる地面に立ち上がって逃げることもできずに、あんな格好をしたハンスによって。
ハンスの魔の手は私たちに届くことはなく、バロンによって消滅させられたが、あの時の恐怖は忘れられない。
死を目前にして動かぬ手足も、腕に抱きこんだアイギスの温かさも、忘れられそうにない。
助かった安堵と、失わずにすんだ安心感から、涙腺が緩み、涙が止まらない。
困惑する男性には申し訳ないし、後で土下座しようと思うけれど、私が知性を取り戻すまでしばし時間をください。
^^^^^^^^^^^^
私の泣き声は杉の木林の中を数十分にわたり木霊し、気絶していたアイギスが腕の中で居心地悪そうに身震いするまで続いた。
その間、ずっとそばに付き添ってくれていた男性には誠に申し訳なく、また、感謝の念がたえない。
「っ誠に、申し訳ありませんでした!!」
泣き止んですぐ、男性には謝意を伝えるために土下座した。勢いをつけすぎて膝を打ったし、擦りむいたし、額も地面にぶつけた。
「やめてっ!?」
心優しい男性はそんなことしなくても良いと私を立ち上がらせようとしてくれたけれど、ここで手を抜いては女が廃るので誠心誠意土下座を続けた。
「——あの、本当にやめてください。俺が社会的に死ぬんで」
声のあまりの必死さに思わず顔を上げた。男性は予想外に真顔だった。
「年端もいかない女の子を土下座させたとか有無を言わせず俺がつるし上げられること必須なんでやめてくださいお願いします」
「ハイ」
真顔ノンブレスな男性のあまりの迫力に受諾以外の選択肢を持ち合わせていなかった。
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