第123話 ハンス


考えを巡らせている間に重いものが地面に落ちるような地響きは続き、音はどんどん大きく、近くなっていく。


地面の揺れもますます大きくなり、立っているのもやっとな現状だ。ひどい揺れだ。ぬりかべでも出てくるの?


ひときわ大きく大地が鳴動したと思った瞬間、それは姿を現した。



BOSS ハンスエクソルツィストLv.14



巨人だ。山よりも高い背に、湖よりも大きな身体、天を突くような巨体が聳え立つ壁のように視界を遮り、


四股を踏む度に足元にクレーターを作りだし大地を震わせる。


でかい。ただ、ただ、でかい。驚くほどに大きな巨人は大きすぎて足だけで私の視界を埋め尽くしている。



あ、これ、無理だな。無理ゲーだ。一周回って冷静になった頭で考える。


バロンなら耐えられるかも知れないけど、私とアイギスは張り手ひとつで即死する。


バロンの攻撃が効いたとしても、その間の相手の攻撃の余波だけで私たちは瀕死の重症を負うか、昇天してしまう。


諦観の念で胸が満たされていく。これは無理だ。これはボスはボスでもレイドボスだ。


数人ではなく何十人ものプレイヤーを集めて挑むような相手だろう。少なくとも、序盤のフィールドでもふもふ三人組で挑むような相手ではない。



「バロン・・・撤退・・・・・」


撤退を提案しようとする私を無視してバロンは巨人に向かっていく。


予想をはるかに超える速度で反応した巨人はバロンへ向けて拳を振り上げる。



「危ないっ!」


振り上げられた拳はバロンには当たらずに、バロンの近くの地面を深くえぐる。


抉られた大地からは水が染みだし、瞬く間に、その場に湖を作り出す。



バロンは揺れる地面をものともせずに巨人に近づき一撃ビンタを決める。


体格差を感じさせないほどあっさりと巨体は揺らぎ、地面へ横倒しに倒れる。


巨人が倒れた地面は大きく深く抉れ、近くの湖と繋がり、川となる。



「えぇ・・・・・・」


目の前で繰り広げられる光景が理解できず、巨人の生み出す地震で転んだまま呆然と湖や川を眺める。


地殻変動がひどい。西で闘った蛇も大きかったけれどフィールドを作り替えることはなかった。


なんて理不尽なモンスターだ。意味が分からない。



「アイギス!無事!?」


いや、巨人の規格外さに唖然としている場合ではない。


モッフモフなスキルによって、飛んでくる石から守ってくれていたアイギスに急いで声をかける。


大慌てで確認したアイギスのHPは・・・めっちゃ減ってる!?



お風呂の栓をし忘れた時のお湯の消費量並みに減っている。


オール電化とかだとその日使うお湯をタンクに貯めておいて、そのお湯を消費して温水を出したり、


お風呂を沸かしたりするけれど、お風呂の栓を忘れるとタンク内のお湯がすごい勢いで減少する。


ひどい時にはお風呂のお湯がはれなくなるくらい減る。


スイッチを押してから5分、10分経って聞く「お風呂の栓が閉まっていません」の声の絶望感よ。


アイギスのHPの減り具合はがつんと減ったタンク内の残り湯量を見つめる焦燥感に似た感覚を覚えるほどの減り具合だ。



慌ててアイギスに応急手当をかけ、次いで医術を使用する。ポーチの中のポーションも取り出して構える。



  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る