第122話 夢の世界
この揺れ、この音からして、東のボスはかなり大きそうだ。もしくはかなり重いのかもしれない。
現実の方のまとめサイトで得た情報によると東のボスはプ〇キュアで変態で悪魔祓いを生業とするふくらはぎらしい。
うん。意味が分からないよね。私も何が何だか分からないと思ったよ。でも、実際にそう書いてあったんだ。まとめサイトに。
現実のまとめサイトは頼りにならない。
しかし、それも仕方のないことであるのかもしれない。フルダイブ型のVRMMOはVR装置を介してみんなで共通の夢を見ているようなものだ。
運営が用意した共通の物語をなぞりながら、自らの脳が見せる夢の世界を冒険する。
その夢はゲームという枠組みがある以上、実際の夢のように荒唐無稽、好き勝手な物語をつくり出すわけではない。
しかし、実際の夢と似た部分も存在する。その一つが起きた時の記憶の曖昧さだ。
人間誰もが夢を見る。毎日、夜寝るたびに幾つもの夢を。夢なんて見ないと言う人も例外なく。
けれどその夢の内容を覚えていることは少ない。
夢の中で見た心を震わせる美しい景色も幻想的な光景も空想的で神秘的な映像も壮美的で独創的な雪月花も野性的で夢幻的な花鳥風月も、
そのほとんどが夢の世界に置き去られ、忘れ去られてしまう。私たちが覚えていられるのは夢のほんの一部だけ。
イディ夢内での出来事もそうだ。実際の夢よりは覚えていることは多いけれど、細かな部分はほとんど忘れてしまう。
イディ夢の敵モンスターはやたらと長い横文字の名前をしているが、その名前も現実に戻ったら頭文字一つ思い浮かばない。
いや、モンスターの名前はゲームの中にいても割とすぐ忘れてしまうが。
あれだ、ほら、ゲームの中で美味しいボロネーゼを食べても現実では何か食べた気がするなぁ程度にしか覚えていなかったりするのだ。
そのくせ、怖いことは割とよく覚えていてアイギスご乱心事件もとい狐襲撃事件は現実に戻っても頭を占拠していたりもしたが。
もっとも、本物の夢とイディ夢では夢の続きが見られるという点では異なる。
夢は夢として忘れてしまえば思い出すことはあまりないが、イディ夢で起こったことはゲームにログインすれば思い出せる。
現実ではゲームの世界のことの多くを忘れてしまうが、ゲームの中では覚えていられる。
それはゲーム機が脳の代わりに記憶してくれるからだ。だから全部ではないにせよ忘れてしまったゲームの出来事を思い出し、夢の続きを見ることができる。
しかし、ゲームの情報の多くはゲームの中では思い出せても現実では忘れてしまっている。
ゲームの攻略情報なども現実に戻れば思い出せないことが多く、あやふやなものになってしまう。
その影響で現実の方のまとめサイトの情報が混沌としてしまうのだろう。
ちゃんと覚えていない情報を何となくで書き出すから曖昧模糊となってしまうのだ。
浮雲朝露のように頼りない情報では今から対面するであろうボスを推し量ることは出来ない。
実際にこの目で確かめて、無理そうなら撤退しよう。幸い、自分たちは速さに自信のあるパーティだ。
敵と対面した後でも、ボスフィールドの端まで全員でたどり着き、逃げ出すことも可能だろう。
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