第106話 男は黙って


「状態異常を回復するスキルが欲しいの?」


「うん。この間みたいに私やアイギスが憑依されて操られたら私たちの命が危ないでしょう?」


「確かに。危ないね。僕の命が」



アイギスはむっちゃ分かるみたいな顔で何度もうなずいている。


そんなに怖かったんだな。二度目がないようちゃんとスキルを取らなければならないという決意が固くなる。



「それなら僕、このスキルがとりたい」


アイギスは己のステータス画面を私の前に差し出し、両前足でこれっと言わんばかりに一つのスキルを指し示した。


アイギスのステータス画面は普段、私にはHPとMPくらいしか確認できない。


しかし、今のようにアイギスが自分から画面を差し出してきた時には現在の保有スキルやこれから取得可能なスキルも閲覧可能となる。


おそらく、従魔のステータス画面はHP・MP以外、本人の同意なしには見られない仕組みとなっているのだろう。



モーントカニーンヒェン Lv.11

             HP: 100%

             MP: 100%


     スキル: うさキック

           ??

           死に戻り

           モッフモフやぞ

           候補(逃走・ガッツだぜ・月の…etc.)



私的には、アイギスが取りたいスキルを好きにとっても良いと思っている。


従魔のスキル取得も探索者と同じように無限に取れるわけではないとは思うが、アイギスなら必要なスキルを選んで取ってくれそうな気がするので問題ないだろう。


前にアイギスが取りたがった「モッフモフやぞ」は今では戦闘に欠かせないスキルとなっている。


だから迷わずに承諾の返事をしようとしたのだが、その前に確認したスキル名がなんかおかしいのはどうしてなの、アイギス。



「え?これ・・・?え?どういうスキルなの・・・・・?」


件のスキルの名前は「男は黙って餅をつけ」。名前からはどういったスキルなのかまったく想像できない。



困惑する私をアイギスは不思議そうに首をかしげて見上げ、右の前足を頬にあてて考える仕草をする。それ、可愛いな。



「うーん。たぶん、状態異常にかかりにくくするスキルだと思う・・・・」


なるほど。それが本当なら、まさに私たちが欲していたスキルである。


最優先でこれを取りたいと訴えかけるアイギスの様子からして憑依系のスキルに対する効果が強いスキルなんだろうなぁと想像できる。


アイギスは昨日の二の舞だけは演じたくないらしい。まぁ、私も嫌だけど。



「良いと思うよー」


私たちのパーティで操られて一番危険なのはバロンだが、バロンさんはバロンさんなのでたぶん大丈夫でしょう。


大丈夫だって信じている。で、次に危ないのはおそらくアイギスだ。



通常、ゲームにおいてパーティ戦は回復役からつぶせとよく言われるが、この回復役からというのは状態異常にかける場合にも当てはまるように思う。


たとえば今警戒している操り攻撃でも回復役を操ってしまえば、回復役が操りを解除するスキルを持っていたとしても自分が操られていては解除できない。


逆に回復役が操られていなければ他の人が対象になっても解除することができる。


そのためパーティ戦において如何に回復役を守るかが重要になってくるのだが、私たちのパーティの場合、この法則は適用されない。



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