第93話 誰の目にも明らかな自殺行為の後


ごめん、アイギス。そうだよね。


先程の誰の目にも明らかな自殺行為の後でバロンと一緒に抱きこまれた状況とか悪夢だよね。


心の中で謝罪しつつも、そっと腕の力を緩めた途端に、ロケットを発射するような勢いでアイギスが入口側まで飛んで行った。


白い残像を負った先で地面にめり込みそうなほど深く土下座するアイギス。



「誠に申し訳ございませんでした!!どうか、どうかお命だけは・・・!?」


死神を目前にした死刑囚のような表情を浮かべたアイギスとそんなアイギスにまったく興味がない様子で私の手を舐めるバロンを見比べる。



バロンが私の腕の中から動かずにいてくれるのはたけしも吃驚なバイブレーションを披露していた私を気遣ってのことだろう。


ありがとう、バロン。少しは落ち着いたよ。でも、私の十分の一でもいいからアイギスのことも気にしてあげて。



「あの、バロン。アイギスは操られていたわけだし・・・・・」


無言で下から黄金の瞳に見つめられる。ここでどもっては駄目だ。ちゃんとバロンを説得しないと。


「あの、あの・・・アイギスの意思ではなかったということで・・・・・・」


アイギスから縋るような眼差しが突き刺さる。うん、うん。私頑張るよ。頑張ってアイギスの生存権を死守するから。


「・・・・・・許してあげて欲しい・・・です」


『・・・・・・・』



ダメージが無に等しかったとは言え、蹴られたバロンとしてはやり返したいという気持ちも分かるよ?


分かるけれども、バロンが蹴った場合、アイギスが無事では済まないと言う問題がありましてだな。どうか寛大な心で慈悲をください、お願いします。



『・・・・まぁ、脆くとも盾はあった方が良いか』


アイギスが上目遣いでバロンの様子を窺う。横目で睥睨するバロンと目が合いかわいそうなほど動揺して再度頭を床に擦りつけた。


『・・・今は、まだ、生かしておいてやろう』


「あ、ありがとう、バロン!良かったね、アイギス!」



アイギスの生存戦略に成功し、ほっと安堵の息をもらす。


先程視線が合ったことが余程怖かったのか、アイギスは土下座の姿勢のまま動かないが、下手に刺激するのも危険なのでそっとしておくことにした。



「・・・・・」


安心したところでログアウトを、したくない。


今日は夜寝る前にゲームしてから寝ようと自室の寝台の上でこの世界へログインしている。


ログアウトしたら、自分以外誰もいない部屋にて一人で寝なくてはならない。恐怖体験の記憶が生々しい現在、一人になんてなりたくない。



そうだ、西の大国で買ったブラシをまだ試していなかったんだ。ブラッシングしよう。


もふもふに癒されよう。もふもふで思考を埋め尽くして先の体験を忘れよう。



「ねぇねぇ、バロン~。梳いても良~い?梳いても良いよね?」


ポーチの中からバロン専用の青いブラシを取り出し、バロンに迫る。バロンは特に何も言わずにブラシを瞥見して伏せの体勢で落ち着いている。



何も言わないということは許可をくれたと言うことだろうと勝手に判断してブラシを構える。


見た感じバロンの美しい毛並みに毛玉は存在しないようだ。


バロンが肩や腕の中でくつろいでいる時にバレないように撫でまわした際にも毛玉らしきものはなかったし、毛が絡まった様子もなかった。


このままブラシで梳いても問題ないだろう。


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