第92話 とりもちは食べ物ではありません


ポーションが一つ無駄になってしまい悲しく感じながらも、もしかしたら別のものを投げたのかもしれないとポーチを覗く。


ポーションの数は変わっていない。本当に投げたものはポーションじゃなかった。


では何を無くしたのか。無くしたら困るもの、フォースさんたちから貰った手形やバロンたちのブラシなどは消耗品や


ドロップアイテムをいれている霜蛇のポーチとは別にして、アイテムポーチの方に隔離してある。


そのため、無くしたのは消耗品かドロップアイテムだとは思うけれど…食料を無駄にしたとしたらポーションよりもショックが大きいな。


覚悟を決めて確認した結果、無くしたものはぶさ可愛いので記念に取って置いた「草原犬の根付」だった。あれ?それって…



そっとアイギスの様子を窺う。頭部にたん瘤を作って気絶している。近くには「草原犬の根付」。


ごめんアイギス、犯人は私だった。



しかし、アイギスが倒れていることとバロンが無関係だとするとバロンはいったい何を攻撃したのだろうか。


アイギスに送っていた視線をバロンへと移せば、勝利の余韻に浸り肉球を舐めていたバロンと目が合った。


モンスターは倒すと光の粒子となって消えるため、一撃で仕留めるバロンに返り血などはつかない。


当然、肉球にも汚れはついていないはずだが、それにしては美味しそうにバロンは肉球を舐め続けていた。



『どうやら此奴、憑依されていたようじゃな』


「・・・ひょうい?」


『うむ。憑りつかれていたようじゃ』


「・・・とり・・つく・・・・?」



アハハ!ソウダネ、バロン!鳥つくねってオイシイヨネ!え、違う?鳥つくねじゃなくてとりつくだって?


ウンウン、ソウダネ。鳥黐もオイシイヨネ!食べたことないけど、名前からしてオイシソウだからキットオイシイヨ!



「・・・・・・」


『・・・・・・』


私は無言でバロンとアイギスを抱き上げた。


そのままガンダッシュで風車小屋まで駆け抜ける。


先程までは戦闘を避けて少々蛇行しながら小屋を目指していたが、今はそんなこと気にしない。


たとえモンスターが戦闘状態に移行したとしても攻撃される前に通り過ぎてしまえばこっちのものだ。


いいから、とにかく、早く、可及的速やかに安全な建物の中に避難するんだ。



音速で草原を走り去って風車小屋の扉を素早く開錠し、中に滑り込む。


後ろ手で素早く内鍵を掛け近くにあった机で扉が開かないように固定する。


机だけでは心もとないので椅子もその上に乗せて重りとした。


これでも心もとないが、他に乗せられそうなものがないので諦めて扉から離れた位置にあるベッドまで避難する。


そのままベッドの上で二匹を抱きしめて丸くなる。



小屋の中は小さな丸窓から入る月明りのみが光源として存在し、洋灯にも燭台にも灯をともしていない状態では小屋の外よりも薄暗い。


しかし、洋灯も燭台も入り口の側にあり、扉に近づかなければ火を灯せない。


仕方がないので寝台の上に掛けられていた毛布をはいで中にくるまり、外界の景色を遮断する。


毛布の中は小屋の中よりもさらに暗いが、何かに包まれている安心感を与えてくれる。


足先だけが毛布からはみ出しているのが気になって、靴を脱いで毛布の中にしまい込む。


体育座りをしようとしたが、途中で腕の中の二匹がつぶれてしまうことに気が付いて二匹をつぶさない方法で丸まった。



そのまま幾許かの時間が経過した頃に、腕の中で何かがもぞもぞと動いているのに気が付いた。


視線を向ければアイギスが目を覚ましたようで大層居心地が悪そうに体を震わせては必死に隣から視線をそらしていた。


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