第91話 アイギス危機一髪
アイギスの説得を試みる私の隙をついてバロンが腕から飛び出してしまった。
「ぅえあ!?バロン、待って!!アイギスはちょっと乱心してるだけで、私たちの大事な仲間だよ!?」
やばい。とにかくポーションを!いや、だめだ。ポーションじゃ役に立たない。蘇生薬はどこだ!?
蘇生薬?そんなの街で売ってなかったよ!?え、え、どうしよう。このままじゃアイギスが危険で危ない。
大混乱で訳が分からなくなりながらもポーチの中を漁る私の視線の先で、アイギスがバロンへうさキックをかましている。
バロンには一切効いた様子はないが鬱陶しそうに眼を眇めてアイギスを見据えている。
何してるのアイギス。命が惜しくないのか。正気の沙汰とは思えない。そんな私でも思う自殺行為をするなんて、アイギスはどうしてしまったのか。
恐怖に青ざめた私をよそに、小蝿(のようにバロンには威力がなく感じる)攻撃を無言で受け続けていたバロンがとうとう我慢の限界が来たのか、
ゆらりと一歩踏み出して助走をつけ、跳び上がる。
「わーーー!?バロン、まってーーーーー!!」
無意味に手足をばたつかせて何とかバロンを制止しようとしたがバロンは急に止まれない。
すでにアイギスに向かって跳躍してしまっている。このままではアイギスが死んでしまう。何とかバロンを止めなければ。
「あっ」
二匹に向けて走り出した足が草原の草に蹴躓いて縺れる。
まずい、転ぶ。咄嗟につき出した両手が間に合い顔面衝突は免れたが、手に握っていた何かがあらぬ方向へ飛んで行ってしまった。
え、何を持っていたっけ。ポーション?
緊急事態にもかかわらず空気読まずに転んだ自分が信じられなくて呆然していると、
どこからか「キュッ」という鳴き声と「ヒェン」だか「キュン」だかよくわからない悲鳴が聞こえてきた。
そうだ、放心している場合じゃない。アイギスが危ないのだった。
慌てて顔をあげてアイギスたちを探した私の視界には無残な姿となったアイギス、の近くに生えていた草花と何かをブッ叩いた後の姿勢で固まるバロンの姿だった。
え、どういう状況?
今度こそ転ばずに近くへ駆け寄って確認すれば、アイギスは目を回して倒れているものの息はあるようだった。良かった、
九死に一生を得た。さすがのバロンも仲間には手加減をするらしい。気絶させられただけで済んで幸運だった。
しかし、手加減されたとしてもバロンの攻撃は痛いだろう。早く回復をかけなければとHPバーを開いたが思ったよりも減っていない。
不思議に思ってアイギスを観察する。先生、患者は頭部打撲により昏倒している模様です。
毛皮に埋もれてわかり辛いですが頭部にたん瘤ができています。たん瘤の原因はおそらく近くに落ちている木の彫り物でしょう。
ん?木の彫り物?あ、これ、ワンちゃんの落とし物だ。草原の犬がドロップする「草原犬の根付」が真っ二つになった状態でアイギスの傍に落ちている。
状況から考えてアイギスが気絶した原因はこの根付が頭部に当たったことだろうな。
なるほど、バロンの攻撃を受けたわけじゃないからアイギスは無事だったのか。
でも、この根付はいったいどこから現れたのだろうか。それに転んだ時に私の手から飛び出したポーションも何処に行ったのだろう。
周囲を探しても見当たらない。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます