第90話 バロン=ゴ〇ラ


夜のフィールドで戦闘をしたことはまだない。


バロンだけならば余裕で戦えると思うけれど足手纏いな私が奇襲を避けられずに即没して死に戻る未来が見えている。戦闘は避けて早く風車小屋へ避難しよう。



視認できる範囲でモンスターを避け、できる限り近寄らないように注意する。


モンスターはある一定範囲以内に近寄ると攻撃態勢に移行し、こちらからそれ以上距離を詰めなくても近寄ってくるようになる。


その距離はモンスターにより異なるようだが、草原のモンスターの索敵?範囲はそんなに広くないように思われる。



昼間、草原の大運動会を開催していたバロンの様子を見ていても、そんなに遠くからバロンに気が付いて寄ってくるモンスターはいなかった気がする。


体感によるが砂漠の鷹鷲はもっと遠くからこちらに気が付いて攻撃状態に移っていたように思う。


いや、でも、バロンが相手ではいまいち信憑性に欠けるかもしれない。


草原のモンスターも途中から攻撃の意思が一切なくなり、いかに早くバロンから離れるかそれだけに必死になっていたように見受けられた。


ゴジラが現れて向かっていくのは同じく怪物のモスラか自衛隊などのやむを得ない使命を帯びた人間くらいだと思われる。少なくとも野生動物はとりあえず逃げる。



モンスターの元となっている動物で考えると、うさぎの視力が0.1で、犬の視力は0.2とか0.3だと聞いたことがある。


対する鷹鷲の視力が4.7だったろうか。犬やうさぎは近視ぎみで人の視力よりも低く、鷹や鷲は人の1000倍ほど遠くを見る力があるそうだ。



うさぎの主食は草、己の立つ地面のほど近くさえ見えていれば発見可能であろう。


人に飼われる犬はそもそも餌を探さないし、嗅覚が優れているので獲物はにおいで見つけるだろう。


鷹鷲の場合は上空から獲物を発見する必要があるので視力が優れていないと食い逸れてしまう。


そう考えるとモンスターが敵対する範囲は鷹鷲が広く、犬やうさぎは狭いのではないだろうか。


だから視認できる範囲でも避けていれば戦闘にはならないはずだ。たぶん。



モンスターに近づかないように注意しながら、過去最高速度で風車小屋まで走る。


その途中で、急ぎすぎたのかアイギスが頭上から転がり落ちた。


急に重みのなくなった頭に驚き振り返れば蹴鞠の玉のようにころころと転がっていく白い毛玉が見える。


私の肩から同じ光景を見ていたバロンがそわっとしたのを咄嗟に抑え、アイギスに声をかける。



「ごめん!アイギス大丈夫!?」


アイギスからは返事がない。



玩具の玉のように地面を転がった後に草の上でぺしゃりと潰れ、はたきのように倒れたままピクリとも動かない。



「アイギス・・・・・?」


まさか打ち所が悪かったのだろうか。


いつも頭上から地面へ平気で飛び降りていたから落下によるダメージなどは負わないのだと思っていたが、意図せず落ちた場合には怪我をするのかもしれない。



「アイギスさん・・・・・?」


それとも地面に落としてしまったことを怒っているのだろうか。心配になって忍び足でアイギスに近づく。



地面につぶれたアイギスの耳が風に揺られて小さくそよぐ。


その度にバロンが飛びつきたそうに身じろぐので内心肝を冷やしながらも、手が届きそうなところまでアイギスに接近した、その時。


急に沈黙を貫いていたアイギスが音のしそうな程勢いよく起き上がった。



「!?」


吃驚して飛びのいた地面にアイギスの強烈なうさキックが突き刺さる。



ちょっ、アイギスさん、そこまで!?落としてしまった事は本当に申し訳なく思っているけれど、だからって何も蹴りを繰り出してくることはないでしょ!?


まって、落ち着いて!?落ち着いて話し合おう!?話せばわかるから!!



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