第80話 メインクーンの雄猫(約10㎏)


クエスト、ゲームなどでプレイヤーが冒険を進める際に、達成していくべき、もしくは達成した方が良いとされる課題や目標のこと。


例えば、よくある冒険ファンタジーにおいて、勇者が最終目標である魔王討伐までの間に、


村人からちょっとした頼みごとをされたり、旅の道中で魔物退治を依頼されたりする。


その依頼をこなすことで、勇者は魔王に関する情報を得たり、魔王を倒すための武器や仲間と出会ったりする。


中には魔王討伐とは直接関係のないクエストもあるけれど、概ね、クエストを受けることは勇者の成長につながり、利益となる。



MMORPG(マッシブリー・マルチプレイヤー・オンライン・ロールプレイングゲーム)においてもそうだ。


クエストを受けることで特別なアイテムをゲットできたり、ゲームの世界に影響を与えたりする。



そんなクエストにも様々な種類が存在する。


クエストで要求される行為で分けると討伐・調達・護衛・配達の四つに分類可能で、


クエストの発生条件で分けると誰にでもわかりやすい形で受けられる通常クエストとある特殊な条件でのみ発生する特殊クエストに分類できたりもする。



他にも、ゲームや分け方によってさまざまな種類に分類できるが、クエストの中には先着一名のみが受けられる特別なクエストも存在する。


もしこの依頼が、一人だけが受けられるクエストで、なおかつ、ここで依頼を断った場合に次の人へ受注権が移るのではなく、失敗扱いになるものだったとしたら。


クエストの中でも一度失敗したらそこで終わりというタイプのクエストだったとしたら、お兄さんが一生迷子になり続けてしまうのではないだろうか。


考えすぎかもしれない。でも、可能性はゼロではない。



この仮定があたっていなくとも、クエストの発生条件が状況的に考えてかなり特殊な予感がする。


おそらく、ただ船に乗っただけではクエストは起こらずに、迷子になってお兄さんから謝罪される出来事だけで終わると思われる。


船に乗って、迷子になった場所で降り、尚且つお兄さんに料金を支払うことが条件だとすると次にクエストを発生させる猛者が永遠に表れないこともありうる。



その場合、ここで断った時の罪悪感がメインクーンの雄猫が数匹がかりで圧し掛かってきたとき並みの重さで襲い掛かってくる気がする。


この先迷子のお兄さんを見かけるたびに後悔し、迷った末に平謝りする現場に出くわそうものなら一緒に謝りたくなることこの上ない。


申し訳ない気持ちでお兄さんを見続けるくらいなら依頼を受けたほうが後味も悪くないだろう。


依頼失敗によるペナルティも特にないことだし、こうしてクエストが発生するということは解決策が用意されていると予想できる。



「わかりました。頑張ってメイゴスさんの迷子癖を治して見せます!」


気合十分、しっかりと活を入れ、アリアさんに宣言する。


「・・・そんなに気負わなくても良いんですよ?」


「心配ご無用です、アリアさん!ルイーゼはやり遂げて見せます!」


「船に乗るときに覚えていたら、少し気にかけるくらいで十分ですよ?」


大丈夫です。分かっております。大船に乗った気持ちで安心してください。


私が、このルイーゼが、方向音痴なお兄さんを救ってみせます。


両手の拳を顔の横で握りしめ、無言でうなずく私をアリアさんは大層不安げな表情で見つめていた。


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