第81話 孫子の兵法
諸々の手続きを終えて、食料調達のための軍資金を手に入れました。さぁ、買い込むぞ。
あったか十字パンに醸ジュースにお肉も魚も買いためてしまおう。食料は大事だからね。
孫子の兵法にも食料大事って書いてあった気がする。兵糧は何たら何たらで何たら何たらしろって言ってたよ。うん、言ってた。
ん?なに、バロン、どうしたの。え?兵法には兵糧は敵地で調達せよって載っているって?輸送コストの削減のために現地調達が推奨されていると?
すごいバロン。さすがバロン。賢いバロン。兵法も履修済みだなんてただ強いだけでなく知識も豊富なんだね。
文武両道。格好いい。格好いいバロンの視界の端を行ったり来たり泳いでいる尻尾触っても良い?え、駄目?ですよねー。
私の両肩に前後の足を乗せてくつろぐバロンの尻尾を触らせてもらおうとしたが、音速で断られてしまった。
視界の端をちろちろと泳ぎ、誘惑してくる尻尾をいつかわし掴んでみたいが、確実に怒られるので実行できずにいる。
さて、話を戻そう。輸送コストの問題で現地調達が勧められているのなら、なおさら今食料の確保をしておくべきだろう。
私には蛇印の霜蛇のポーチがあるのだ。食料によってポーチの容量が圧迫することがない以上、買えるときに買っておくのが良い。
季節限定ものなどは特に1年たたないと出会えないので気に入ったものは今のうちにポーチの中に詰め込んでおくに限る。
という訳で広場近くにて醸ジュースを売っているおじさんに樽ごと欲しい旨を伝える。
おじさんは樽ごとの注文に驚いた顔をしたのち、思案顔で黙り込んでしまった。
「うーん、樽単位だとすぐには用意できねぇな・・・」
そうか。言われてみれば当然だが、食料も無限に調達できるわけではないのだ。
宿船だって探索者の出現に備えて増船したとは言え、混雑時には不足する状況に陥っていた。
食料も探索者たちがこぞって買い求めると足りなくなるかもしれない。
「すまねぇが、倉庫の方についてきてくれねぇか。在庫がそこに置いてある」
「え、売ってもらえるんですか?」
「ん?おう。宴会のお使いだろ?買えなかったら困るじゃねぇか」
宴会のお使いとは何のことだろうか。これから宴会を始める探索者パーティのお使いかなにかだと勘違いされているのだろうか。
「しっかし、宴会の料理の方は集められんのか?探索者どもが食べる分、消費が増えて食料が不足してるとこもあんだろ?探索者が現れるっつうから小麦類だけは備蓄して来たけどよぉ、肉や野菜は足りないよなぁ」
あ、これ、もしかして、子供のお使いと誤解されているパターンだ。
宴会も探索者の宴会じゃなくてこの街で暮らす街民たちの開催する宴会と間違えられている可能性が思い浮かぶ。
「あの、私、探索者です・・・・・」
「え?そうなのかい!?・・・こいつぁたまげた。探索者にも嬢ちゃんみたいな子供がいるんだな」
本気で子供と間違われていた。今日は大人力上昇の灰色ローブを身に纏っているのに。
「こ、子供じゃないです。歴とした大人です」
よく見て納得してもらおうと両手を広げ、少しでも背を高く見せようと背伸びをして見せる。
おじさんは苦笑して私の頭を撫で、損ねて、アイギスの頭を撫でる。デジャヴ。
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