第79話 特別な依頼


「目的地まできちんと送り届けなかった所か、それで料金までいただくだなんて・・・・メイゴスは、もうっ、本当に、もうっ」


アリアさんはお怒りのご様子。あのお兄さんメイゴスさんって言うのか。アリアさんとはどのようなご関係で?



「あ、ごめんなさい。メイゴスはあの船守の名前で、私は彼の所属する客船ギルド代表の娘なの」


事態についていけずに困惑する私に気が付いたアリアさんが説明してくれる。


この国の運河を駆ける船守たちは皆、客船ギルドに所属しており、その客船ギルドの代表、長のようなものをアリアさんの父親が務めているらしい。



「客船ギルド代表の娘として、メイゴスに代わって謝罪いたします。本当にごめんなさい」


アリアさんは椅子から立ち上がり深く頭を下げた。


「あ、頭をあげてください!大丈夫です!気にしてませんから!」


め、目立つ。冒険者ギルドで受付嬢に立ち上がって謝罪されるって凄く目立つ。心なしか背後から響動どよめきが聞こえてくる。



「お支払いいただいた代金はお返しいたします」


「良いんです。門へは連れて行ってもらいましたから」


「でも・・・・・」


アリアさんは頭をあげてくれたが、謝罪は続けるつもりらしい。申し訳なさそうに代金の返却を申し出てくる。


断ったが、アリアさんは納得いかない様子だ。



「・・・・・では、かわりに依頼を受けていただけませんか?」


「依頼?」


返金の代案が依頼とはどう言うことだろう。



「メイゴスの船に乗って、彼の方向音痴に対する解決策を見つけていただけませんか?」


「え」


「もちろん、余裕のある時のみで構いません。依頼を受けていただいた場合、永久的に依頼と関係ない時でも船代を常に半額にいたします」



永久的に船代半額とは随分と破格の条件だ。


依頼と関係ない時でもということは件の方向音痴なお兄さんの船に乗るとき以外でも半額ということだ。


私が9割安全な船に乗ったとしても常に半額って客船ギルドは大損ではなかろうか。


しかも、依頼の期限も特になく、依頼に失敗したとしてもずっと半額のまま乗れるらしい。


依頼の達成報酬は別途相談って、ギルドの負担が大きすぎませんか。



「大丈夫です。ギルドの損失分は私が補填する約束になっているので」


アリアさんが補填するの?何故?


親が責任者を務めるギルドの組合員とは言え、アリアさんの所属は冒険者ギルドで直接的な関係があるわけではないし、


一組合員のために自腹を切って依頼をするなんて、何故。



「船に乗るときにはこちらのリボンを見える位置に着けてください。証明書の代わりとなります」


アリアさんはそう言って墨色に臙脂色の糸で装飾が施されたリボンを差し出す。


いつの間にか依頼を断れない雰囲気になっている。アリアさんが客船ギルドへ補填する金額を考えると初めに返金を受け入れておくべきだった気がする。


でも、その場合、方向音痴お兄さんの迷子癖が一生治らないのだろうか。


ちょっとメタな考えをすると、この依頼はゲームで言うクエストと言うものなのではないだろうか。


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