第77話 頚椎へのダイレクトアタック *被害者ウサギ


「草よりこの間のパンの方が好き。ドライフルーツいっぱいのが食べたいな」


「あったか十字パンね」


あったか十字パンは今の時期のみこの国で売られる季節限定商品だ。


今のうちに買い溜めしておかないと、次に売り出されるのは一年後になってしまう。

バロンお気に入りの醸ジュースと一緒に一定量の在庫を確保することを決意する。



それにしても、ドライフルーツいっぱいのパンが良いとは、アイギスはドライフルーツが好きなのだろうか。


現実の兎もドライフルーツが好きだと聞くし、そうなんだろうな。


現実ならおやつばかり食べさせてしまうと病気になってしまうが、ゲームの中なので問題ないだろう。


アイギスの毛が生え変わらないように、歯も伸びている様子がない。そのため、無理に牧草を食べさせる必要もないと思われる。


他に気になることは、カロリーの取りすぎだろうか。



アイギスの様子を確認する。特にその場から動く気配はない。


普段のアイギスは私の頭の上でおとなしく座っていて、戦闘時の必要な時のみ地面に降りて盾役をこなしている。


盾役なので、その場から動くことはほぼない。こうしてフィールドで地面に降ろしても動く気はないらしく、じっと静かに座っている。



アイギスの運動量は足りているのだろうか。


そのうち太って、猫よりも重くなったら首や肩への負担が凄いことになる。


兎も種類によっては10kg超えることもあるし、アンゴラウサギも小柄な猫並みの重さになることもある。


アイギスが太った場合、私の首が危機的状況に陥る可能性もある。



アイギスは私の隣にちょこんと座り、風に耳を遊ばせている。


今はきっと、私の護衛として側についてくれているから動かないのであって、安全な場所ならアイギスも動くはず。


でも、船宿の中でも床に降ろしても、その場から自分で移動しようとしなかった。


食事スペースへの移動も寝室への移動だって、私が頭の上に乗せて部屋を移っていた。



「・・・・・まぁ、太ったら、バロンと追いかけっこして痩せればいいか」


そう結論付けて頷く私をアイギスが散歩だと思ってルンルン気分でキャリーケースに入ったら病院に連れていかれた犬や猫のような顔で見つめてくる。


「っ!?死刑宣告!?死ねってことなの!?ルイーゼ!?僕たち家族なんでしょ!?」


決死の形相で言い募るアイギス。


兎って、もっと無表情で何考えているか分かりづらい生き物だと思っていたけれど、アイギスは表情豊かだな。特に絶望系の表情の種類が豊富だ。



「落ち着いてよ、アイギス。バロンだって家族を殺めたりしないでしょ」


そう言って、バロンに視線を遣ると、ちょうどウサギクーゲルカニーンヒェンに飛びかかるところだった。


手加減しつつ追い回して遊んでいたようだが、興奮しすぎて加減を忘れ飛びついてしまったらしい。


ウサギクーゲルカニーンヒェンは物悲しい悲鳴を発しながら消えていった。


あ、うん。



「・・・・・・やめとこうか」


「そうして」



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