第72話 笑顔の圧がスゴい

掲示板まとめ

・北側ボス ハンスマンが倒せない

・ハンスのメタモルフォーゼからの逆ブリッジ

・探索者たちは恐怖で動けない









「最近では、十干十二支を使わない言い回しも増えてきていますよ。子供たちには難しいですし、探索者にも馴染まないだろうからと」


良かった。覚える必要はなさそうだ。強制終了の準備に入っていた私の脳もクロウさんの言葉を聞いて安堵している。


やけに凝った現実世界とは異なる暦なんて攻略で必要にならない限り覚えるのはマニアやオタクくらいだよ。


歴女でも占い師でもない私には必要のない教養だね。



「特に冒険者ギルドでは数字による言いかえが普及していますね」


探索者向けに先んじて十干十二支を廃止したのかと思ったが、違うらしい。


もともと、冒険者は学のない者も多く、かろうじて簡単な単語を読むことはできても、十干十二支のような難しい単語は読めない者が多いそうだ。


また、十干十二支を記憶していない者が大半を占めるため、十干十二支の使用を避け、数字による言いかえが進んだそうな。



「もっとも、十干は数を数えるのに必要となりますし、十二支は時刻を表すのに使うため、必須の教養として私が教える子供たちには必ず覚えさせますが」


あ、これは避けられないぞ。クロウさんからスパルタ式の波動を感じる。子供たちと一緒に暗記させられる予感がする。


それにしても、十二支で時刻を表すって、子の刻とか亥の刻とか言っちゃう系ということですか。


ファンタジー世界だと思っていたら、平安ファンタジーだった模様。そのうち安倍晴明が暴れ出すかもしれない。九本の尻尾で家々をなぎ倒す様が目に浮かぶ。


その場合、だれに助けを呼べば良いのだろう。頼みの綱の陰陽師セーマンが暴れていたら、妖怪をぶつけるべき?それとも陰陽師ドーマンをぶつけるべき?



冗談はさておき、クロウさんのスパルタを回避する方法を探らなければ。


そっと窺い見る私の視線に気が付いたクロウさんが輝かんばかりの笑顔を返してきた。


うお、眩しい。なんて笑顔だ。何故か本能的に逆らえない恐怖を感じるぞ。



「要は十干と十二支を覚えればいいのです。そう難しいことではありません」


そう言って差し出された手には木簡が握られている。もしかしなくても、暗記用に使用する教材ですね。



必殺、愛想笑い。日本人のお家芸、特に面白くも嬉しくもないのにとりあえず場を持たせるためだけに笑っとけスマイル。


外国人に使用すると高確率で相手を混乱に陥れる謎スマイルによって、この場を切り抜けるのだ。


しかしクロウさんには通じないようだ。後光が眩しい笑顔で反撃され、ルイーゼは逃げ道をふさがれた。



「まずは苦手意識から無くしましょう。十干十二支の一覧表です。一日一回この表で日付を確認することを習慣づけてください」


宿題を申し付かった。ん?というか、この一覧表があれば別に覚える必要はないのでは?


日付が分からなかった時は、この一覧で確認すれば良いだけなのではなかろうか。



「決意が整ったら、教会にお越しください。漏れなく万全に十干十二支を暗記させてさしあげますので」


ア、ハイ。


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