第3章 東の大国

第71話 思考回路がショート寸前

掲示板まとめ

・北側開通

・ナイスボート

・特産物は「ウニョーラ!トッピロキ!」

・日本を探す長い旅路は始まったばかり









「なるほど、大冒険だったようですね。・・・しかし、西ですか…もう遅いかもしれませんが、西の虎の国へは年の暮れから初めごろに行くのがお勧めですよ」


帰郷の実感と安堵をもたらした始まりの広場で貝寄風に背を押され、クロウさんのもとへ駆け寄った後のこと。


西の大国への冒険の記憶と大国で手に入れたお土産話に花を咲かせた後のクロウさんの感想である。



「12月から1月頃ですか?」


年の暮れ、12月から1月の冬頃に行くと何か良いことがあるということだろうか。


そう思い、クロウさんへ聞いてみたが12月や1月と言った言い方はこの世界にないようだ。



「12月?探索者特有の暦ですか?」


クロウさんに聞き返されて焦って言葉が出てこない。12月の他の言い方って何だっけ。


「えっ、あの、12月は…えっと…ディセンバー……?」


で合っていただろうか。咄嗟に英語が出てくる日本人なんてそうそういないはず。


少なくとも、私は慌てると日本語以外浮かばなくなる。いや、日本語もあやしいかも。



私が此方の暦を知らないのだと悟ったクロウさんは暦の説明をしてくれた。さすが頼りになる、クロエモン!


「1年は神無月からはじまり、霜月、師走、睦月、如月、弥生、卯月、皐月、水無月、文月、葉月と続き、最後は長月で終わります」


日本の暦だ。古典に出てくる各月の言い方。


でも神無月から始まるのは不思議な感じがする。神無月は八百万の神が年に一度、出雲に集まる月だから、そこを起点に始まるのだろうか。



クロウさんに教えてもらった此方の暦に換算すると、年の暮れごろと言うのはつまり。えーと。


「つまり、師走と睦月の頃?」


「いいえ、長月から神無月の頃ですね」


9月、10月の頃?秋の頃だろうか。



「その頃って、西のモンスターが強くなるころじゃ・・・」


「ええ。でも、ルイーゼさんたちなら問題ないでしょう?」


確信を持った言い方。バロンの強さが分かっている?


いや、クロウさんは私たちが初日に東の草原で戦闘していたことを知っている。それならば弱くはないと思っているはずだ。



「西のモンスターが強化される頃に行くと金属を落とす確率が上がるんです」


「めったに取れないっていう、あの?」


「はい。特に神無月の終わりから霜月の初めが狙い目ですよ」


フォースさんたちにアイギスの装備の強化を頼む際に金属があったら役に立つかもしれない。


秋ごろに西の大国で金属狩り、予定表に書き込んでおかないと。でも、そういえば、今が何時なのか知らないな。


春なのは雰囲気で分かるけれど、何月何日かは分からない。そもそもクロウさんに教えてもらうまで此方の暦も知らなかったしなぁ。



「それって今からどれくらい後なんでしょう?」


「今から・・・そうですね、今が弥生の終わりごろなので、半年ほど後でしょうか。日付にすると・・・・約360日後・・・」


え、360日後なら一年後のほうが近いのではなかろうか。不思議に思い聞いてみれば、微笑とともに教えてもらえた。



「一年は720日ですよ。一月が60日で、それが12月あるので720日」


此方独自の暦だった。ちなみに一週間は六日で、10週で一月となるらしい。


数え方は十干十二支にちなみ、甲子きのえねから癸亥みずのといまでで60日を表すとのこと。


これは1とか60とか振り仮名を振ってもらえないと理解できないやつだ。


弥生甲辰の日とか言われても、何日だよそれってなるやつだよ。十干十二支なんて暗記してない。



「教会で教えている子供たちも、よくそこで躓きます」


そりゃ、そうだ。甲乙丙丁を全部空で言うのだって難しいし、干支だって言ってる途中で一つか二つ飛ばしてしまう。


さらにその二つの組み合わせを覚えるなんて無理難題が過ぎる。子供のやわらかな脳だって、覚えられることに限りがあるだろう。


私の脳なんてすでにオーバーワークでショートしてるよ。シャットダウン寸前だよ。



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