第63話 18禁の尻尾
猫に寒そうだとか暑そうだからと言って首輪や洋服を強要してはいけない。
バロンは以前にも首輪などを着ける気はないと意思表示をしていた。
バロンにもフォースさんたちにも嫌な思いをさせてしまったな。反省。
フードの中に入ってもらうだけでも少しは緩和されるようだし、それだけでは暑さが凌げなかった場合に、また考えることとしよう。
スキルで耐熱を覚える可能性もあるし、水魔法を育てる内に氷系統へ派生するかもしれない。様子を見ながら南の暑さ対策を考えよう。
「ほれ。ウサギっ子の装備も試着してみな」
アイギスの装備は私のローブに付いたリボンと似た色合いのケープのようだ。
いや、アイギスが着ると丸い尻尾がぎりぎり見えるくらいの丈なのでクロークだろうか。裾から覗く尻尾が可愛い。
二重のフレアスカートのようになっており、首元には赤みを帯びた黒色のリボンが付いている。
リボンの結び目には薄桃色の四枚弁の花が飾られている。
花びらの裏や萼に細かな繊毛が見えることから、
しかし、葉っぱがあれば確信を得られるのだが、四枚花だけでは自信がない。
細部まで丁寧に再現されていることだし、図鑑と見比べたらわかるかもしれない。
「っく、かわっ」
アイギスは台の上に降ろされると、その場を駆けまわり、飛び跳ねて装備の着心地を確かめている。
アイギスの動きに合わせて上下するクロークの裾からふさふさの尻尾付きのお尻がチラリズムするのがたまらない。
はしゃぎ疲れて台に溶けたアイギスのクロークの裾がめくれて、尻尾が上下する動きが可愛すぎる。
あれ、私これからこの誘惑物を頭上に掲げて冒険するの。
大丈夫?通報されない?このお尻って18禁じゃないの。お尻の衝撃に立ち直れてないのは私だけなの?
「ムレアの素材が手に入ったら強化してやる。持ってきな」
アイギスの尻尾に夢中になっている間に話が進んでいる。
ムレア?聞いたことない魔物だな。この辺りで遭遇可能なモンスターなのだろうか。
アイギスの装備は最優先で充実させたい。
盾役を引き受けてくれたアイギスが少しでも痛い思いをしないようにというのもあるけれど、
盾役の堅さがパーティの生死を分けることもあるから、装備が強化できる機会は逃したくない。
ムレアと言うのがどういったモンスターかは不明だけれど、識別を使えばモンスターの名前は分かる。
これからは、名前を知るためにもモンスターへの識別を忘れないようにしないとな。
決意を新たに拳を握ったことで、手の中に木彫りの手形を持ったままだったことに気が付いた。
早く、手形を返さなければ。拳を握りしめるまで、すかっり忘れていた。危ない。
どこか欠けていたら、どうしようか。検分したが、特に欠けてはいないようだ。良かった。
「あの、手形……」
繊細な見た目に反して丈夫な手形のようだが、預かっている間に破損でもしたら怖い。
忘れる前に返そうと差し出した手形へフォースさんたちは一瞥もくれずにアイギスのクロークの着心地を確認している。
「持ってけ、手なぐなみに作ったもんだ」
「え、いえ、あの……」
持ってけ?え、持ってけって言った?この芸術品を?というか手慰みとな?
枝葉の一つ一つも花の一片一片も精密に表現されたこの彫刻を手慰みで作るなんて。
「たまには、彫り物もせんと腕がなまるからな」
彫刻の練習として作った作品と言うことだろうか。
鍛冶には詳しくないけれど、アイギスのクロークの飾りに使われた鉄にも見事な彫り物がなされている。
木と鉄で素材に違いはあれど、装備の飾りに彫り物をする時のためにも腕がなまらないように彫刻の鍛錬をするのだろうか。
だとしてもこんな素晴らしい物を気軽に受け取るなんて無理だけどね。
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