第58話 やり手なおばさま
なんと、ここのお菓子をおまけしてくれたおばさまとお姉さんは叔母と姪の関係に当たるらしい。
おばさまはこの国へ来た記念のお土産を探す旅人を見つけると、おまけとしてお姉さんのお店のお菓子を配り、もっと美味しいのが買えるとこのお店を案内するらしい。
「うちのお菓子の見た目は可愛いでしょ?お土産用のは特に力を入れて飾り付けてあるから高めなのよ」
そしておばさまの誘導にかかり、お土産を買いに来た私。
見せてもらったお土産用の箱が凄く可愛くて、説明されなかったら高くても買っていたよ。
お姉さん的にはその方がうれしいと思うけど。
「あら、やだ。さすがに子供からはぼったくれないわ」
こど、子供!?私の大人力はローブによって上がっているはず、それなのにまだ子供と間違われるというのか。
ローブを見ようとしたが、ない。大人可愛い灰色のローブはフォースさんたちの工房に預けてあるんだった。
なんたる不覚、大人力の低下に気づかなかった。
ここは大人っぽい仕草でアピールしなければ。冒険者ギルドのターニャさんを思い出すのだ。あの大人の女性って感じの髪を耳にかける仕草を。
「私、子供じゃありません」
我ながら素晴らしい再現率だったと思うのに、売り場のお姉さんには母猫のまねをしてジャンプに失敗した子猫を見るかのように微笑まし気に見られた。解せぬ。
お姉さんの勧めでマカロンに似た氷菓子を幾つか紙袋に詰めてもらった。
お土産用の可愛らしい箱ではないけれど、袋が開かないように固定してくれた大きなリボンだけでも十分心惹かれる見た目になっている。
お土産の箱に使うリボンらしい。口止め料としてお姉さんが巻いてくれた。
「はい。他の旅人には内緒でね」
「了解です」
格好良く敬礼した私の頭を撫でようとしたお姉さんが間違えてアイギスを撫でている。
兎特有のやわらかい毛に感動したのか、二度三度と手のひらを往復させる。
わかる。アイギスの毛並みは最高だ。ふわふわのやわらかな毛が気持ちいい。
あ、もちろんバロンの毛並みも最高です。もふもふツルツルした指触りの長い毛はいつ迄でも触わっていられる。
なにより、撫で続けても手に毛が付かない。二匹とも特に毛が抜けたりしないらしく、今日も素敵な毛艶だねって掻き撫でても指の間に毛玉ができないのだ。
抜け毛に悩まされることなく永遠にもふり続けられるもふもふって夢みたい。毎日幸せを実感している。
「あら、私ったら、ごめんなさい。あんまり素敵なうさぎさんだったものだから」
アイギスは首をゆるく振って、前足を擦り合わせ、顔を洗っているようだ。
よく見えないけれど、そんな感じの音と揺れがする。
「アイギスのこと褒めてくださってありがとうございます。自慢の従魔なんです」
愛らしさだけでなく、手触りも最高で、パーティの盾役もこなせる万能兎。全能猫のバロンも揃って、うちのパーティは最強だ。
最強にもふもふしている。
笑顔でお姉さんと別れて、買い物を続ける。
この辺りは小物を売っているお店の区画のようだ。
髪飾りや腕輪、櫛に手鏡などのお洒落雑貨が店先を彩っている。
その中で従魔用のブラシが目に留まった。抜け毛のない二匹には必要ないかもしれないが、私がブラッシングしたい。
櫛梳きにかこつけてお触りしたい。あわよくばお腹の毛を堪能したい。
「ねぇねぇ、バロン。バロンは何色が好き?」
己の欲望に従って、ブラシの購入を決意する。
二匹にご機嫌でブラッシングを受け入れてもらいためにも、お気に入りのブラシを選んでもらおう。
「碧色・・・銀灰色も好きじゃな・・・・・」
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