第57話 愉快な名前
通路をつなぐ連絡橋に置かれた椅子に腰かける。
丸テーブルには先程貰ったお菓子のような色合いのパラソルが差さっており、硝子の天井から降り注ぐやわらかな日差しを受け止めている。
各々の前に並ぶ三色の包みを開けていく。
包みと同色のムースがクッキーとスポンジの間のような見た目の生地で挟んである。
しっとりした食感の生地とふわふわのクリーム、硬いチョコチップの歯ごたえが口の中で七変化する。
甘いチョコと甘いムースをラズベリーの程よい酸味がグループのリーダーとして纏めてくれている。
このトリオは売れる。プロデューサーも太鼓判を押してくれるはずだ。
『ふむ。キャラメル味じゃな』
バロンのはキャラメルだったらしい。少しほろ苦さも加わっていい感じなのだそう。
アイギスのは何味だろう。視線を向ける前に食べ終えていて分からなかった。緑色の果物は何があったかな。
『ん?なんじゃ?』
目が合ったバロンに尋ねられる。
「んー、バロンはアイギスと仲直りしたの?」
仲直りと言うのは正しくないかもしれないが、バロンはアイギスが仲間になってからずっと態度も冷たく、歓迎してない雰囲気というか、何時齧ろうか機会を窺う様子を隠してもいなかった。
けれど、アイギスに名前を付けたころからだろうか、バロンの態度が軟化した気がする。
フォースさんたちの工房でもアイギスを褒めた時に不機嫌にならなかったし。
バロンは自分以外が褒められると何時もなら不愉快そうに尻尾を揺らすのに、あの時は大人しかった。
アイギスを仲間として受け入れたということだろうか。これが名付けの効果なら、もっと早くにアイギスに名前をあげれば良かった。
ずっと、バロンに視線を向けられるたびに怯えるアイギスが不憫で仕方なく思っていたのである。
名前一つで解決するなら恐がらずにさっさと名付ければ良かったな。
『・・・アイギスとは、面白い名をつける』
私の言葉にバロンは喉の奥で低く笑い、楽しそうに言葉を紡ぐ。
「?すっごく強い盾の名前だよね?」
アイギスの名に笑いを誘うような要素はあっただろうか。
詳細は知らないけれど、神話に出てくる強~い盾の名前がアイギスと言ったはずだ。
そこからとった名前だけれど、バロンには愉快な名前に聞こえるのかな。
二匹は特に喧嘩をする様子もなく並んでテーブルに座っている。
名前の話の続きをするつもりはないらしく、各々自分の世界に旅立ってしまったようだ。好き勝手な方向を向いて寛いでいる。
さて、試食も終わったことだし、引き続きお土産を買いに行こう。
マカロンに似た形のお菓子はおばさまのお店から5軒隣の氷菓子店で買えるんだっけ。
氷菓子店のものは氷菓子になっているとも言っていたな。
1軒2軒と数え歩くと、澄んだ空のように鮮やかな天色のカウンターと白い飾り戸棚が綺麗なお店に到着した。
戸棚には商品の見本が展示されているようで、先程の三色の他に亜麻色のお菓子も置いてある。
氷菓子と同じ色のジェラートも販売しており、冷気が漂う容器の上に組まれた戸棚には焦げ茶色にこんがり焼かれたパンが陳列されている。
もしかして、このパンに挟んでジェラートを食べるのだろうか。
パンとジェラートって罪深いほど美味しい組み合わせだよね。
「いらっしゃいませ!ジェラートですか?」
ジェラートをガン見していたら、カウンターに立つお姉さんに苦笑されてしまった。
いや、だって、暴力的な組み合わせを見つけてしまったから。
「五軒隣のお店で氷菓子をお勧めされたんです。お姉さんのお勧めはありますか?」
「ああ!あなたもおばさんにまんまと誘導されたのね!」
私の話を聞いたお姉さんはクスクスと笑って種明かしをしてくれた。
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