第56話 アイギスは心配性
ジェラートの食べ歩きに沸き立つ私の頭上でアイギスが身じろいだ。
「ブッ」
低く短い鳴き声。緑のジェラートはご不満だろうか。
上目遣いに窺ったアイギスの耳が一つの店舗を指し示す。
温かそうなクロワッサンを売るお店だ。一緒にお土産用のビスケットも売っている。
「先にお土産を買えってこと?」
「ブッ」
違うらしい。ジェラートを買おうとしたら、クロワッサンを示される…
「クロワッサンが食べたいとか?」
朝食がビスケットと飲み物だけと少なかったため、お腹が空いているのかもしれない。
クロワッサンのような食べ応えのあるものをご所望なのかもしれぬ。
「ブッ」
これも違うらしい。えー、なら、うーん。
「冷たいものばかり食べるなってこと?」
「プゥ!」
そう、それ、と言うように鳴き声が変わる。
ジェラート食い道楽ツアーに反対だったらしい。お腹を壊すかもしれないって?ゲームでもそう言うのあるんだ。
食べられるジェラートが一つか二つだとすると迷うな。
先にお土産を選びながら各店舗を見て回って、美味しそうなジェラートを厳選してこよう。
ぱっと見では見つからない穴場ジェラートの発見でも目指そうか。
「二人とも、美味しそうなのがあったら教えてね」
「・・・・ぅなぁ~」
欠伸しながらの可愛いお返事ありがとう。
お土産にするならこの国ならではのものを渡したい。
この国でしか買えなさそうなものって何だろう。イタリアの洋菓子だろうか。
ジェラートとエスプレッソのイメージしかないな。どちらもお土産にできそうにない。
「旅人さんかい?」
声の主を探せば、ふくよかなおばさまが陳列棚を挟んだ向う側に立っていた。
紅白の制服に白い三角巾を頭に着けている。店先に並ぶきのこの容器が可愛い。
「はい。帰る前にお土産が欲しくて探してました」
私の言葉に待ってましたと言わんばかりに、おばさまは満面の笑みを浮かべてこう続ける。
「それなら、赤きのこチョコがお勧めだよ。見た目も華やか、この国の名物水差しジョンを包んだ、お土産に最適な一品さ!」
「水差しジョン?」
「そうさ。チョコとナッツのペーストを固めたやつだよ。うちのはやらかめのペーストをミルクチョコで包んである」
チョコとナッツ、レストランで食べた化粧ポーチみたいな形のチョコも水差しジョンだったのだろうか。あれは幸せな味がしたな。
「きのこチョコを二つください」
「まいどっ」
上機嫌のおばさまは慣れた手つきでキノコの容器にリボンを巻いて、おまけまでつけてくれた。
マカロンに似た見た目の丸っこいお菓子をきのこチョコと一緒に渡される。
「甘い冷菓だよ。残念ながらうちじゃ、冷凍設備がなくて、ただの焼き菓子になってるけどね。
本物は5軒隣の氷菓子店で買えるよ。気になったら寄ってみな!」
ベリー色、マスカット色、キャラメル色の
子供の喜びそうな見た目だし、覗いてみようかな。
でも、その前に味見をしよう。
「二人とも、どれがいい?」
『・・・残ったものを食べる』
バロンは閉じていた瞼を薄く開いて、すぐにまた閉じてしまった。
小動物と追いかけっこしている時とは比べ物にならない程、気だるげに頭を動かしている。
どうもバロンは食べ物への興味が薄いようだ。
買い物に付き合ってもらったお礼に、始まりの広場に帰ったら、バロンのためにも草原で一日遊ぼうか。
アイギスも故郷の草が恋しいかもしれないし。
「アイギース」
「プゥ~」
選んで、選んでとアイギスの前に三色の包みを差し出すと、鼻先でマスカット色のお菓子をつつく。
やっぱり、アイギスは兎だから緑が好きなのかな。
残るはベリー色とキャラメル色の包みだ。桃のような春めいた色の包みなのでベリー色を選ぶ。バロンにはキャラメル色を進呈しよう。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます