第54話 団栗の背比べ
丈夫な縄は本当に丈夫だったようで、炉の中で燃えて灰になることもなく、赤く熱せられた金属のように灼熱の輝きを纏って金床に置かれた。
フォース弟さんはハンマーで軽く叩いて丈夫な縄だったものの形を整えていく。
やがて薄く引き伸ばされ、リボンのようになったそれを霜蛇のポーチに取り付ける。
見ていてもどういう理屈で形成されたのかいまいちわからなかった。どうやってくっ付けたの、それ。
「ほれ。腰、結べ」
「あ、ありがとうございます」
「ん。愉快なもん見た礼だ」
愉快なもの?何のことだろう。疑問に思ったけれど、フォース弟さんは答えてくれる気はなさそう。
身に着けられるように改造してもらった霜蛇のポーチをウエストのあたりに巻く。
蝶結びで固定しようとするが上手く結べない。あれ、なんかこれ、蝶結びじゃないよね。
手間取っていたらフォース兄さんが来て結んでくれた。
「ありがとうございます」
「いや。・・・ウサギっ子の装備は外套の形で良いか?」
「あ、はい。大丈夫です。予算は・・・・」
「これくらいじゃ」
「了解です」
無事に商談は成立した。使用するのは湿原狼の皮と霜蛇の皮と髭、あと狼から出た金属(鉄)らしい。どんな外套になるのだろう。
「・・・・・ちびっ子は俺たちを怖がらないのか?」
怖がる。確かに初めは大きな声で怒鳴るように会話をしていて、いつもなら怖いと感じそうな二人だった。
けれど、バロンやアイギスが大きな声に耳を伏せているのに気づいてからは音量を少し小さくしてくれたし、それに、
「目線が同じくらいなので・・・?」
そう。上から怒鳴られたら怖いけれど、フォースさんたちは少し小柄な私よりも背が低いので、恐怖感はそれほどない。
私の背は少し、少しだけ小さいので大体の人に上から見下ろされる。しかし、フォースさんたちは違うので、威圧感を感じにくいのだ。
「む。確かに同じくらいの目線だな」
「お前、小さい!小さい!」
ち、小さくないし!私の方が背は高いのだから、フォースさんたちに小さいなんて言われる筋合いはない。
「私の方が大きいです!」
ここ、大事なところなので強調しておきますね。
思わず肩に力が入ってしまったが、私の方が大きいのは一目瞭然。私は小さくなんてない。
「あー、悪かった。ちびっ子に失礼だったな」
「ルイーゼです!」
ちびじゃないんだってば。頬を掻くフォース兄さんに訂正する。ちびっ子呼びは断固拒否します。
「あー、悪い、悪い。ルイっ子な」
「はい」
勢いで肯定してしまったが、ルイっ子とはいったい。
なんか変わったあだ名を付けられてしまったような。まぁ、ちびっ子ではないなら良いか。
「お詫びに、ほれ、そいつの手直しもしてやろう」
「ローブのですか?」
「ローブ、勿体ない。器大きい」
「器?」
ローブに対して、器とは聞きなれない表現だ。どういうことか尋ねれば、フォース兄さんが解説してくれた。
武器防具には、器というか、その装備を強化可能な許容量が存在するらしい。
この許容量は装備によって、まちまちで、器が大きいほど強化の回数や強化の比率も多くなるとのこと。
アン…何とかで買った灰色のローブは性能こそ低いものの、器が大きいため強化できる回数も多く、強化できる割合も大きいそうだ。
その灰色のローブを湿原狼の毛皮などを使って強化してくれると言う。
お詫びなので格安で請け負ってくれると聞いて、お願いした。受け渡しは3,4日後だ。
今日ログアウトして、明日取りにくればちょうどいい。
「手形だ。持っていけ」
階段を上った小屋で諸々の手続きを終えた後、フォース兄さんに根付のようなものを投げ渡された。
壁に取り付けられた松明へ火をつけた室内は書類の記入も問題なく行える程度には明るい。
その室内で、渡された木彫りの手形だというものを観察する。
一見では、芸術的で繊巧な彫刻の施された木製のチャームのようだ。
そう大きくはなく、片手で握れるほどの小ささ。
細い木の枝が何本も絡み合ったような表面に生い茂るように葉っぱの装飾が刻まれており、所々に咲いたブローチでよく見るような花の、細かな粒まで再現されている。
これはトネリコだろうか。息をのむほど繊細な意匠の凝らされた手形はそのまま受け取ることをためらわせる。
「っフォースさ――」
こんな美術品受け取れません、そう伝えようとしたのに闇に溶けてその背中は見えなくなっていた。早い。
しょうがない。手形らしいので次に訪れる時まで大切に保管して、忘れずに返さなければ。
アイテムポーチに時間停止機能がついていて良かった。でなければ、壊しそうで怖くて、ずっと握りしめているところだった。
でも、握っていて花とかが欠けたら困るな。早く仕舞おう。
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