第52話 お爺さんはツンデレ節


明かりに近づくごとに、むわりとした熱気が身体に纏わりつき、後方の階段へと流れていく。


カンカンと金属を打つ音が響き渡り、大きな声を出しても聞き取りづらいと思わせるほど騒々しい。


煌々と燃える炉の前に二人の老人が立っている。


よく似た背格好の二人でお揃いの帽子とエプロンを色違いの襟付きシャツの上に着けている。



「フォースども!客を連れてきてやったぞ!!」


ギックリオお爺さんの声に二人の老人は初めて気が付いたというようにこちらを振り返る。


鼻も耳も長く、土気色の不健康そうな顔色をしている。今すぐ日光浴と休養を勧めたくなる顔色だ。



「おお!!ギックリ爺さんじゃないか!久しぶりだな!」


「久しい!久しい!」


老人二人は親し気にお爺さんへ挨拶する。というか、今、なにか不穏な愛称が聞こえたような。気のせい?



「ふんっ。商売っ気のないお前さんらに客を紹介しに来てやったんだ。感謝しろ」


お爺さんはここでもツンデレ節。私の中の何かが反応してしまうので程々でお願いします。



ここにきて二人組と視線がようやく合った。


思ったよりも近くに感じる。目線の高さがあまり変わらないからだろうか。



「おお!客か!礼を言うぞ!ギックリ爺!!」


「礼を言う!礼を言う!」


会話をしているのは主に一人で、片方はもう一人の言ったことの鸚鵡返ししかしていない。


というか、やっぱり不吉な言葉が聞こえるような。いや、そんなはずないよね。



「ふんっ。儂はもどる!もう迷うなよ!」


私に一言残し、ギックリオお爺さんは去っていく。


「ありがとうございました!」


その背に向けてできる限り大きな声でお礼を言う。聞こえただろうか。次に会った時には改めてお礼しよう。



「儂らはフォースアイコンパラブラじゃ!ギックリ爺さんの紹介だからな!特別に聞いてやろう!!」


「感謝しろ!感謝しろ!」


鍛冶屋さんの二人組へ向き直ると、そう告げられた。一見さんお断りの工房な気配がする。


「ルイーゼです。よろしくお願いします」


とりあえず、自己紹介。思ったよりも緊張しないのは背の高さに他の人ほどの差異がないためだろう。


軽く下げた頭の上と足元に視線を感じる。アイギスとバロンを見ているのかな。



「えっと、相棒のバロンと、アイギスです」


「ふむ。欲しいものはなんだ?」


相変わらず声は大きいものの怒鳴り声ではなくなった。普通の声も出せるんだ。


欲しいもの。ここに来た目的は従魔用の装身具だ。アイギスの防御力を上げるような装備が欲しい。



「この子、アイギスの装備が欲しいんです」


見えやすいように両手のひらを合わせた上に移動してもらったアイギスを二人の前に差し出す。


「・・・・欲しいのは素早さか、魔力か?」


「いえ、防御力です」


「防御力?」


奇怪なものでも見たかのような顔で正気を疑われてしまった。


確かにアイギスは小さくて素早さによる撹乱とかが適任そうに見えるけれど。



「こう見えても、アイギスは立派なナイトなんです。今までだって何度も、モンスターの攻撃から守ってくれました」


身体は小さくても我がパーティの信頼できる盾である。


栗鼠の突撃からも、蛇のブレスからも守ってくれた実績がある。


誇らしげに立ち上がったアイギスの後ろ姿を目に焼き付けながらバロンを盗み見る。


今までの経験から尻尾が暴れるころかと思ったが薄目を開けて確認した後は、階段の傍で伏せたまま動かない。バロンが大人しい。何かあったのかな。



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