第47話 砂漠鷹の爪


それは、アン…アン……なんとか。


そいえば私、アン…何とかの名前が胃痛国としか出てこない呪いにかかっていたんだった。どうしよう。



「胃痛国?覚えやすくていいじゃないか!次からそう呼ぶよ!」


あ…、あの、違うんです。合ってる、意味は合っているけれど違うんです。その名前は覚えないでください。



受付の女性はにかっと豪快な笑みを浮かべ、姿勢を正した。


女性の動きに合わせて豊満な胸が緩慢な動きで上下に揺れる。


女性の着る煌びやかな刺繍の施された詰襟の上着には料理のコックさんが着るような二列のぼたんが並んでいる。


ここは残念なことに冒険者ギルドであってレストランではないので、コックさんとは異なる黒色の生地で作られた制服には赤色の差し色が入っている。


揺れる胸の振動によって金色の釦が細かく震えているのが見てとれた。


腰元を締めるベルトにより腰のくびれが強調され、対比して胸の大きさが増して見えている。羨ましいほどスタイルの良い女性だ。



「私はターニャ。ここの受付さ!今日は西の砂漠らへんの維持依頼について達成報告に来たのかい?」


「は、はい。ルイーゼです。…あの」


「んー、あの辺の維持依頼は胃痛国で報告した方が貰えるもんが多いんだよねぇ」


ターニャさんはアン…なんとか周辺の依頼やモンスター一覧らしき資料を取り出して、金額の記された箇所を指で軽く叩く。


う、う、うう。どうしよう胃痛国で覚えられてしまった。



「そうなんですか?…あの」


「そうさ。胃痛国あたりのモンスター素材はこの国じゃ需要がないからねぇ。向うなら素材の買取価格も上乗せされて、多少色も付く」



そ、そうなんだ。アイテムポーチの中は道中のモンスター素材で逼迫している。


しかし、中身を確認すれば「霜蛇のポーチ」なるものが入っていた。


このポーチはアイテムポーチの類似品のようで、中にアイテムを収容できるようだ。


今すぐモンスター素材を売らなければいけないわけではないかな。



でも、この国でお土産を買うためにも資金は用意したい。


「金属は持ってないのかい?」


「金属?」


「ああ。この辺のモンスターは稀に金属を落とすのさ。で、この金属を落とす確率がほんのちょっとだけ胃痛国の方が高い。…ま、質は言わずもがなだけどね」



へぇ、そうなんだ。そういえばワンちゃん(狼)のドロップ品に鉄があったな。


なんで犬(狼)が金属を落とすのか不思議だったから覚えている。


ボスドロップだからかと思いきや、西側モンスターの特産物?だったらしい。



ポーチを覗いても、ワンちゃん(狼)のドロップした鉄以外に金属は入っていない。


この鉄はボスドロップだし、自分たちの装備に使いたい。他の物を売ろうかな。



「これだけ依頼完了手続きをしてください」


たくさんあるわしと蛇の素材の半分をカウンターに乗せる。


半分と言っても、バロンが結構じゃれついていたので量は多い。



一緒に出そうかと見たたかの素材が「砂漠鷹の爪」と言う名前で、どう見ても唐辛子なのは何故なのか、一瞬戸惑ったではないか。


鷹からのドロップで唐辛子?鷹の爪って呼ぶから?



「結構あるね、少し待ってな」


そう言って手続きを始めるターニャさん。豪快な仕草の割にアイテムを扱う指先は丁寧だ。


赤褐色の髪を耳にかき上げる所作が大人の女性らしさを感じさせて憧れる。


白銅色の瞳をゆるく伏せるのがミソだな。指の角度はこうで。うん。覚えておこう。



「ん?ルイーゼ、あんた…従魔に名前を付けてないね?うさぎのモンスターにウサギって、そのままじゃないか」



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