第46話 とんでもない名前の国
「お前さん、名前も知らん国に旅して来たんか……」
う、いや、ゲームってそういう物でしょ?VRMMOでは着いてから国とか街の名前が分かるのは普通でしょ。
「ふんっ、ここは西の大国へクセンシュスだ」
「ヘ、へクセンシュス…!?」
と、とんでもない名前の国じゃないですか!戦慄する私の様子に気づかずにギックリオお爺さんは誇らしげに胸を反らす。
やめてください!そんなことをしたら……!?
「小粋な名前だろう?『魔女の一撃』という意味でな。海の男に似合いの名だ」
ああ!?やめて!そんなに腰を反らないでください。一撃が、一撃が入ってしまう。
ギックリオお爺さん。名前を聞いた時には何も気づかなかったけど、国名を知った後だと怖い名前だ。お爺さんの腰が心配で気が気でない。
「最近の若いもんは海にも川にもいかず、軟弱な仕事ばかりしおる。ヘクセンシュスに生まれたからには男は漁師をせにゃならん!」
そ、そうですね!?理解したので今すぐ腰を正常位に戻してください。お願いします。
『…人間の間では、ああいうのを荘厳というのか?』
ギックリオお爺さんと別れ、冒険者ギルドに向かって歩く私へバロンが問いかける。ちなみに、お爺さんの腰は無事です。
「感性は人それぞれだから・・・・・・」
先程の噴水、ギックリオお爺さんは「荘厳」と言っていたけれど、私にはもっと優し気で綺麗な景物だと感じられた。
しかし、物事の受け取り方は人によって異なる。お爺さんにはあの噴水が荘厳に見えるのだろう。
噴水から冒険者ギルドまでは視認できる距離にあり、そう遠くない。
砂漠とは異なり、地面もしっかりと舗装されていて歩きやすい。数分もしないうちにギルドの前に到着した。
冒険者ギルドもまた他の建物と同じく紅色だ。
茶色に近い、少し黒みがかった赤色の建物で真っ白な雪が積もったように上部だけが白い。
大小さまざまな三角帽子の塔がくっ付いており、その形はア〇ロチョコを連想させる。
チョコレート生地の間に薄く白い生クリームの層が幾つかあり、上側は生クリームか粉砂糖がかけられている。
うん?つまり、あれはアポ〇ではなく、生クリームを絞った形?三角に絞られた生クリームの上には星形の飾りがついている。
あの飾りは門のピエロの帽子にもついていたな。
「チョコケーキに似てる・・・」
「は?」
「お腹すいたな・・・」
「あ、ああ、そうじゃな?」
冒険者ギルドを見上げてお腹を減らす私にバロンが困惑している。頭上のウサギにも不思議そうに眺められている気配がする。
とにかく、中に入って手続きを済ませよう。道中手に入れたアイテムがいっぱいある。
ギルドに入れば天井の高い大ホールに出迎えられた。左右に二階へ続く緩やかな階段が見える。
柱から天井まで美しく繊細な絵が描かれており、天井には精巧な人物画が描写されている。
人物はどれも髭面のおじさんで王冠を被っていたり、マントを羽織っていたりして、たぶん偉い人たちなのだと思う。みんな違う衣装や装飾品を着けている。
『転ぶぞ』
天井を見上げて不規則に進む私にバロンが注意する。慌てて正面に視線を戻せば、受付のお姉さんと目線がぶつかった。
恥ずかしいから、とりあえず笑っておこう。
「新入りかい?来な。受付してやる」
豪快に笑ったお姉さんに手招きされる。姉御肌のお姉さんだ。
「お、お願いします」
ギルド証をお姉さんに差し出す。
「お、あんた緩衝材国家から来たのかい?ずいぶん遠くから来たんだねぇ」
かん…っ、それはアン…なんとかの不名誉なあだ名。
「ん?なんだい?緩衝材国家呼びは嫌だって?じゃあ、何て呼べばいいんだい?」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます