第34話 犬も食わぬ
もう一つくらいスキルを取れそうだが一旦保留にして休憩を終える。
お昼ご飯も食べたし、もう少し西へ進んでみよう。
砂浜を歩く。海岸の砂は粒子が細かく足を取られて歩きにくいため、海水で湿った岸辺を行く。
足のすぐ傍にゆっくりと近づいた波が、またゆっくりと遠ざかっていく。
バロンは肉球が濡れるのを嫌がって、陸側の少し離れたところを歩いている。
寄ってくるモンスターは相変わらず一撃で伸している。
ふと、一羽の
鷲はバロンの手が届かないギリギリを旋回している。
何をするつもりだろうか、思わず見守る私たちを見据えて空中で静止した鷲が大きく翼を羽ばたく。
その翼によって強風が生み出され、私たちに襲ってくる、ことはなく、私たちの前で立ち消えた。
「キィーッ キッキッキッ」
ちょ、
迷惑そうな鷲と一向に気にしない鷹は二羽纏めてバロンのビンタを食らい消えていった。
いや、だから名前。何も分からないことが分かりました。
考えるのが面倒くさくなったので
なんだかよく分からないけれど、カーちゃんは強風を吹かせることができて、
そしてトーちゃん(もしくはアーちゃん)はそれを打ち消すことができるということだろうか。
なぜ
モンスターにも体当たりや蹴りなどの物理攻撃スキル以外に魔法などの遠距離もしくは非物理攻撃スキルがあるようだ。
距離が離れているからと油断していると魔法攻撃を受ける危険性がある。注意しなければ。
そうこうしている内に一匹の蛇がこちらに向かってくる。バロンの攻撃を空中で器用に避けながら、大きく息を吸う。
「キュ――っ!」
ウサギが目の前に飛び出し、スキルを使う。
頭上に乗るくらいの小さなウサギの体が何十倍にも膨れ上がり、蛇から私の体を隠す。
そこへ吸った息を吐きだす蛇。蛇の息はただの息ではなく炎を伴いこちらに向かってくる。
「キャー――!」
大迫力の炎の渦がこちらに押し寄せ、ウサギの体で遮られて後方へ流れていく。
これに耐えられるとはウサギもすごい、と見つめた先でモッフモフの名に恥じない大増量の長毛に火が点く。
よく見ればウサギの毛先に所どころ火が点いて焦げている。やだ、ウサギ燃えてる!
「ギャー――!」
消火!消火ぁ―――!!大急ぎで水魔法を使用し、ウサギに点いた火を消す。
水魔法で使用可能な呪文が水の玉しかない。これではのどを潤す量の水を作るくらいしか効果がない。
今欲しいのはもっと大きな水を作れる呪文なのに!
蛇のブレス?攻撃が止んだ隙に小さくなったウサギに水の玉を掛ける。
ウサギは濡れ鼠になったが火は消えた。それにしても、水魔法をもっと使って、早く使える呪文を増やしたい。たぶん使い続ければ増えるはず。
びしょ濡れのウサギをタオルハンカチで拭きながら考える。
タオルハンカチは露店で見つけて数枚買っておいた物だ。女の子の嗜みとして買っていて良かった。
火吹き蛇?火を噴くなら竜?は
モンスターたちってなんであんなに仲が悪いの?足の引っ張り合いが酷い。
先程の蛇は今までで一番、強敵だった印象。もふもふの毛ってよく燃えるんだな。
『怪我は?』
心配したバロンが近寄ってきた。
「大丈夫。毛先が燃えたくらい」
ウサギは毛先に火が付いたものの、長い毛が幸いして火傷などは負っていない様子。一応、応急手当もかけておこう。
『・・・そうか』
バロンはまた陸側へと離れていく。
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